原田マハ著『楽園のカンヴァス』を読む

 原田マハという作家を僕は知らなかった。
 先々週の日曜日だったか、新聞に山本周五郎賞の受賞作として紹介されていて、著者の原田マハがインタビューで「構想25年以上。ずっと胸の中で温めてきた物語です。」と語っていた事に興味が湧いて、読んでみようと思って読み始めた。
        

 しかし、先週後半から今週にかけては、仕事の事で頭もいっぱいで、普段は読書時間に当てている通勤電車の中でも、仕事関連の事を考えたり、構想を練ったり、メールを打ったりしていて、途切れ途切れの読み繋ぎとなってしまって、やっと今晩読み終わった。
 それと、この小説は謎のコレクターが所有するアンリ・ルソーの絵の真贋を巡って、美術館の学芸員と女性研究者が対決するというミステリー小説だ。
 そんな事で、僕が読む初めての分野の小説だったし、この原田マハの文体は翻訳小説を読んでいるような感じの文体で最初はちょっと戸惑う。
          

 しかし、読み進めるうちに、知らなかった世界の美術作品をとりまく事情というか、美術業界の裏舞台というか、そんな事にも興味が湧いたし、美術館での展覧会などの企画の成り立ちなどにも「ヘェ〜、そんな思惑で美術展を開催するのか」と、ルソーの絵の真贋を巡っての展開と合わせて、結局はこの小説に引きずり込まれてしまった。
 また、美術作品に詳しくなくてもアンリ・ルソーの絵やピカソの絵は、雑誌や画集で見たことはある。そのルソーとピカソの2人の関係にも興味心をそそられた。
 著者が最後に「この物語は史実に基づいたフィクションです」と書いているから、あながち全てがフィクションだと思わないので、ルソーとピカソの関係も「そうだったのか」と、僕は勝手に納得している。
 それと、この物語。
 僕は何と言っても、敵対していた2人の主人公・美術館学芸員と女性研究者が、謎解きが深まる中で、お互いのルソーの絵に対しての愛情から、心が通じ合っていく過程に引きずり込まれたのだと思う。
 最後に2人は15年ぶりに再会するのだが、それがまた、爽やかな気持ちでこの物語のページを閉じることが出来るのがいい。

 僕には、疲れた頭を癒す方法の一つに読書があるのだが、今回も、普段の思考や分野と異なる読み物に出合って、十分にその役割をしてくれたと思っている。
 それと、世界の美術業界の事も少しは知識として知ることが出来て、満足している。
 さすが、ニューヨーク近代美術館に勤務経験もあるキュレーター(学芸員)でもある原田マハの作品だと感じる。
 美術に関心ある人には、特に、お薦めの1冊だ。