映画『隣る人』を観て考えさせられる

 この映画『隣る人』は、日本映画学校の学生当時からの知り合いの大澤一生君と小野さやかさんが関わった映画だ。
 監督は刀川和也さんだが、知人の大澤君はプロデュース・構成・撮影を担当し、さやかさんも撮影メンバーの一人なのだ。
 3月中旬に、大澤君から試写会の案内が届いていたのだが、ちょうどその日がオーストラリア出張で、残念ながら東京不在だったので観ることが出来なかった。
 今、東中野駅近くの「ポレポレ東中野」で一般公開しているので、早速、帰宅途中に出掛けて観た。
           

 この映画は、埼玉県内の児童養護施設で暮らす人々の日常を追ったドキュメンタリー映画だ。
 さまざまな事情で親と暮らせない子と、親代わりに愛情を注ぐ保育士の姿を、8年がかりで撮影したという。
 この児童養護施設は、保育士が交代勤務制でなく、一人の保育士が子ども5人程度を担当し、その担任が住み込みで、家族のような仕組みの中で生活し、親のような立場になって子どもと一対一の関係を育んでいく責任担当制が特徴なのだ。
 このタイトルの「隣る人」は「自分を受け止めるためだけに居続ける人」という、施設理事長の養育思想を込めた造語だとパンフに書いてあったが、子どもの育つ過程にとって、絶対的な無償の愛で、まるごとその子を受け止める人がいるかどうか、ということが如何に大切かを投げかける。
 そして日常における大人の、一緒に食べる、寝る、抱きしめる・・そんな日々の子どもとの営みが、子育てにとって如何に大きな要素なのかをも問いかけてくれる。
 また、こんなにも体当たりで、血縁を超えたところで、その子を全身で受け止め、親密な関係を子どもと育もうとする保育士がいることに僕は感動した。
 この映画『隣る人』は、ナレーターによる何の説明もなく、何のテロップもなく、ただ流れる日常の日々を映し出しているのだが、その中に、児童養護施設の問題にとどまらず、「人はひとりでは育たず、生きていけない」さらに「人と人との関係とは何か」を考えさせてくれる、これぞドキュメンタリー映画という表現手法の本質を感じさせる一作だと僕は思った。
        
 上映後に、予定外で、館を訪れていた刀川和也監督と施設の理事長・菅原氏が挨拶してくれた。