サチコさんの出版した漫画本

 会の機関紙「けんさん」にマンガを描いてくれている埼玉県在住のサチコさんが、
 『生きていてくれてありがとう─自殺未遂からの出発─』というタイトルの漫画本を出版した。
 サチコさんは、昔、プロの漫画家で、4〜5年前にも不登校の問題をテーマにした漫画本を出している。
 今年の「けんさん2月号」の時に「また、本を出すことになったから、連載をしばらく休ませて」と連絡があった。今度はどんなテーマの本を出すのかと楽しみにしていた。

 今回、出版されたのは「夫の自殺未遂」をきっかけに、家庭の中の自分、そして夫婦の愛を確かめ合うというテーマに挑戦している。
 本の「はじめに」にサチコさんは次のように書いている。
 「なにがあってもこの人だけは、自殺なんかしない。事件の日まで、私は疑いもしませんでした。その確信が突然崩れた時、私に起きた気持ちは、なにを信じたらいいのかわからなくなった不安と、夫が死を選びたくなるような妻なんて最悪だ・・と世間が言うのではないかという恐れでした。」
 本編のマンガは、
 結婚して子供が生まれ、甘えん坊の夫と少しずつずれていく気持ち。子どもの不登校。夫の会社の倒産と転職。そんな状況の末に突然起こった夫の自殺未遂。不登校になるような自分の子育てを責め、夫を自殺に追い込んだ自分を責め、また自殺を企てるのではないかという恐怖の日々。
 こんな展開で進んでいく。
 マンガを通して、なぜそうなったのか、なぜ夫は自殺まで考えてしまったのか。幸子さんは、実体験を振り返りながら、自分の家庭の軌道を丹念に、まるで検証するように、心の動きをあからさまに描く。
 実体験だからこその、迫力と臨場感あるストーリーとなっている。
 よく、ここまで自分の夫のこと、子どものこと、そして自分を正直にさらけ出せたと驚かざるを得ない。
 そして、最後には、
 「私の思い通りの夫じゃないと愛せないかっていうと、そうじゃない。夫を悪者にして、自分を正当化している気持ちを横に置けば、彼のいいところを、文句より大きく膨らませることができる。
 私が安心して、いびきをかいて、オナラもできるのは、他の誰でもない、あなただから。
 なにより・・・寒い夜、冷たい足を温めてくれる、あなたの足はあったかい。」
 こんな風に、この物語は終わるのである。
 サチコさんは、この本の「おわりに」で、
・この話の中で一番描きたかったシーンは、夫の心の奥深くにある気持ちでした。それまでの私は、自分の気持ちにしか関心がなく、しかも自分の考えは絶対に正しいと思っていたので、夫の心を感じようともしなかったのでした。(略)
・皿を洗ってくれたとか、ささいなことだけど、以前は「不幸の数を数える女」と呼ばれていた私が「私は、すっごく恵まれている」と思えるようになりました。(略)
・いろいろやって掴んだ最大のことは、他人を責めている時はその根底に、自分への責めがあるということ。いちばん大事なのは、いつも、どんな自分のことも許してあげること。自分に愛を注ぐことだなあと思います。自分を許すのはとても難しいですが、少しでも近づくようにしています。
 この様に書きまとめている。
 一人の主婦が、突然の出来事と、日々の葛藤の中から掴んだものは、とてつもなく大きい、大切なものだというのが感じられる。
 また、最後に「あれから八年が過ぎて」という夫の手記も載せている。
 そこで、彼は「今年は私達夫婦にとって、結婚25周年です。妻と一緒に旅をして、一生連れ添っていく誓いを改めて立てたいと思っています。」と結んでいる。
 ちょっとだけ、子どもが小さい頃からの幸子さんを知っている僕は、幸子さんに、今、読後としてエールを贈るとしたら、「よかったね」と言う言葉だけだ。それ以外の言葉が残念ながら僕には見付からない。
 蛇足になるが、この漫画『生きていてくれてありがとう』が、重いテーマでありながら、一気に読ませるのは、幸子さんの漫画絵のタッチの清々しさも大きいと思う。