3冊のシナリオ本を手にしては思う

 案内所の机の引き出しの奥には3冊のシナリオ本がある。
 1冊は私の好きな作家の1人である宮部みゆき原作の小説が映画化された「理由」。もう1冊は浅田次郎新撰組の無名隊士のひたむきな「義」の姿を描いた「壬生義士伝」。3冊目は、一昨年、アカデミー賞を受賞して話題となった「おくりびと」である。

 3冊ともに、今は亡き俳優Y・Tさんがわき役として出演した映画である。「理由」と「壬生義士伝」のシナリオ本はY・Tさんが直接プレゼントしてくれたサイン入りの本だ。「おくりびと」は亡くなられて暫くたった後に奥様から送られてきた。
 先の2冊を思い出の品として奥様の手元にお返ししようと思っていた時だったので、いささか恐縮していたら、人づてにY・Tさんが生きていたらきっとプレゼントしたと思うからと言って私に送ってくれたことを知って、なおさら恐縮してしまった。
 Y・Tさんが出演した映画は多い。ほとんどがわき役であるが、個性派俳優として味のある役を演じていた。
 そんな彼は時々「最近どんな本を読んだの? いい本あったら貸してよ」と案内所に寄ることがあった。また、会の機関紙「けんさん」に私が若者をインタビューして記事にし連載していた「明日・次代を創る」を愛読し、次号掲載を楽しみに待っていてくれていた。
 ある時、お酒を飲みながら話の流れで、原作を読んだ感動が映像になって裏切られる事が度々あるという話題になった。シナリオは原作に忠実であるべきか否か、そんなやりとりの中で「シナリオを書いてみたら」と言われたことがある。「若いときには同人誌をつくって詩や短編を投稿したこともあったのですがね、才能がないことに気づいて、とうの昔にやめました」と言ったら、その後も違う話題で暫く盛り上がった後の別れ際に「シナリオ書いたら俺が演じるよ」と酔いの勢いだろうが言ってくれた言葉を思い出す。
 無愛想で人付き合いは決していいとは言えない彼だが、男の優しさを心の奥に秘めていた。それが演技にも現れていた。俳優としても、友人としても、若くして亡くなったことが本当に残念である。
 そんな彼の演じたシナリオ本の3冊。自分の台詞に方言のアクセントなどを鉛筆で加えてあるのを見ながら、いつか、時期をみて、奥様にお返しするのが一番いいのだろうな、受け取ってくれるかな、そんな問いかけを繰り返すのである。

 写真は亡くなられた2ヵ月後に行われた「お別れの会」。普段はTVや映画でしか拝見できない方々が、心からの弔辞を述べられていた姿を思い出す。(携帯電話に保存してあったのでアップした)