小栗康平監督の映画『死の棘』を観る

 現在、北千住の東京芸術センターのブルースタジオで、小栗康平監督の映画を1作品づつ2週間サイクルで上映されている。
 その情報を教えてくれたのは、8年前に小栗監督の映画『FUJITA』で照明を担当した友人のツカヤマさん。ツカヤマさんは、『FUJITA』以降、小栗監督から声がかかって時々食事をしたり、映画とは何か、これからの映画はどうあるべきか、などの話し会いのお付き合いをしているらしい。

    

 人づてにツカヤマさんが僕と連絡を取りたいと言っていると聞いたのが一週間前。連絡が取れたのが3日の日曜日の夜だった。
 一作目『泥の河』はすでに8月末に終わっている。二作目の伽耶子のために』は5日まで。観たいと思ったのだが、その時は会の機関誌「けんさん」編集の大詰め、時間がとれなく諦めた。
 それで、編集の仕事の合間の昨日、三作目の『死の棘』を観に北千住に出掛けた。

 

 北千住は初めての街、やっと探してブルースタジオについてホッとしていたら、約束などしていなかったのにツカヤマさんが来た。約20年ぶりくらいの再会だ。
 再会を喜びながら2人で並んで観賞。
 この映画、最近では貴重になったデジタルでなくフイルム上映なのだ。

    

 島尾敏雄原作のこの映画は1990年の作品。原作は「日本文学大賞」なども受賞し、映画はカンヌ国際映画祭で「グランプリ・カンヌ1990」「国際批評家連盟賞」をダブル受賞と、知る人ぞ知る内容なので詳しくは書かないが、
 舞台は終戦後。奄美大島で戦中に出会い恋に落ちた男女、終戦を迎えて結婚。
 結婚して10年になり2人の子どもにも恵まれ、穏やかに暮らしていた一家に崩壊の危機が訪れる。夫の浮気が発覚し、妻は心を病んでしまう。
 夫はそんな妻に献身的に支え、壊れた家族の絆をもう一度と、妻も、時には自分も、狂気の果てに再生を見出そうとする。
 そんな夫婦の壮絶な葛藤の物語なのだ。

    

 夫婦を演じるのは、若かりし日(30年以上前)の松坂慶子岸部一徳
 その壮絶というかリアルで迫力ある演技に圧倒される。
 そして、2人の心の揺れと、それから現れる狂気な行動を、小栗監督は丹念に丹念に映像で表現している。
 映像も驚くほどきれいで、ストーリーの先を急がない、じっくりと深く深く表現しようとする、最近の映画では得ることが出来ない新鮮な感じを僕は受けた。
 映画も興行的要素から離れた作品は、やっぱり「芸術」だと納得する映画だった。

 

 観賞が終わってから、40分ほどツカヤマさんとコーヒーを飲みながら話し込む。

 小栗監督の求める映画、その変遷が、一作、一作ごとに感じられるという。

 次回作の『眠る男』も楽しみだ。