近藤史人著『藤田嗣治「異邦人」の生涯』を読み終わる

 先日、映画やCM撮影の照明技師の友人・ツカヤマさんから、彼自身もスタッフとして制作した小栗康平監督の映画『FOUJITA』(フジタ)を、ぜひ観て」というお誘いの電話があって、その後、『FOUJITA』こと、画家・藤田嗣治の作品が、東京国立近代美術館「特集:藤田嗣治、全所蔵作品展示」として公開されていることを知り、映画を観る前に、藤田嗣治についての知識が欲しいと思い、その展覧会に行ったことは、すでにブログに書いた。
 その時、東京国立近代美術館ミュージアムショップで入手したのが、この近藤史人著『藤田嗣治「異邦人」の生涯』という文庫本だ。
         
 著者の経歴を知らないで買ったのだが、近藤史人さんはテレビディレクターで、NHKスペシャル「空白の自伝・藤田嗣治」を製作した人で、その取材をもとに書いたのが、この『藤田嗣治「異邦人」の生涯』だったのだ。
 この本は、2003年の大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している。
 ミュージアムショップには藤田嗣治関連の書籍が何冊かあったが、その中から、この文庫を選んだことを、読み終わった今、幸運だったと感じている。



 父が陸軍軍医総監という裕福な家庭に生まれ藤田嗣治
 その幼少期から、パリに渡ってからの苦節の年月。
 そして本格的に画家として認められ、エコールドパリの寵児として、名声と人気を思うままにしたパリでの絶頂期。
 第二次世界大戦中は、日本へ戻って戦争画家としての活躍。
 戦後、その「戦争画」は芸術作品として認められず、戦争協力者というレッテル。
 そんな日本に見切りを付けて再びパリへ戻り、フランス人に帰化してパリ郊外で亡くなる。
 そんな、世界と日本の間で、そして歴史の荒波の中で苦悩する画家・藤田嗣治の人生。



 著書にも書かれているのだが、『明治以降の日本人画家で、海外で藤田に匹敵する高い評価を得ることができた画家は今もなお存在しない。だが、藤田ほど日本と海外での評価が異なっていた画家はいないのも事実である。』というように、今まで謎とも言われていた藤田嗣治の生涯。
 そんな藤田嗣治の波乱万丈の人生を、丹念な取材と、温かい眼差しで近藤史人さんは、人間そして画家としての藤田嗣治を解明し書いている。
 NHKのドキュメンタリーのための取材ということだけあって、最後の夫人である君代夫人の証言や、藤田に関連している著書、藤田の手記や手紙など、彼を取り巻く数々の資料を紹介して、より真実の藤田嗣治に迫りたいという近藤史人さんの情熱が伝わってくる。



 この『藤田嗣治「異邦人」の生涯』は、実に読み応えのあるノンフィクション小説だった。
 小栗康平監督の映画『FOUJITA』(フジタ)は、すでに公開されている。
 観に行く時間がなくて、今週は行けなかったが、来週はぜひ観たいと思っている。