小栗康平監督の映画『眠る男』にハマってしまった

 現在、北千住の「東京芸術センターのブルースタジオ」で、小栗康平監督の映画5作品を1作品づつ2週間サイクルで上映されている。
 その情報を教えてくれたのは、8年前に小栗監督の映画『FUJITA』で照明を担当した友人のツカヤマさん。

    

 この情報を知ったのは、ツカヤマさんとも暫く連絡を取ってなかったものでコンタクトが延び延びになって、上映二作目の伽耶子のために』が終わる2日前で、残念ながらその後の『死の棘』から鑑賞となった。
 現在、上映しているのは『眠る男』

    

 この映画は、群馬県の温泉の湧く山間の小さな町を舞台に、そこに暮らす人々を静謐な眼差しで描いた人間ドラマなのだが、前回観賞した『死の棘』同様、いやそれ以上にこれといったストリーや、登場人物の台詞に頼らない、小栗監督独特の映像作品で、商業的映画やTVドラマに慣れている感覚では戸惑いを感じるのだが、自然と、人々の日常の暮らしと、そこで織りなし感じる生と死、偶然とも必然とも定かでない形でゆっくりとした時間の流れの中で、詩的断片となって映し出される映像で物語が展開していく。


 その内容については、すでに観られた人も多いと思うし、ネットで検索すれば出て来るので触れないが、自然の断片的ともいえる映像描写(木々の葉の揺れ、風の流れなど)、その自然の中での人々の魂と、そこに現れる長い時間で育まれた暮らし。それが何とも心地よい感覚を呼び起こすのだ。

 僕は『眠る男』が上映されて2日目に観賞したのだが、1週間後に何故かまた無性に観たくなって、再度、北千住に出掛けて2度観賞となってしまったのだが、ますます、この映画の背景と小栗康平監督の考えを知りたくなって、何か資料はないかとメルカリを検索して、上毛新聞社が出している『「眠る男」の記録』という本と、次回上映の『埋もれ木』映画パンフレットを入手。

    

 『「眠る男」の記録』を読んで、この映画が生まれた経過に驚く。
 この映画は1996年に、群馬県が人口200万人を突破したことを記念して、その記念事業として群馬県が映画製作費用4億円を投じ、群馬県前橋市出身の小栗康平監督に映画製作を依頼しできた映画なのだ。その経緯が詳しく書かれている。
 地方自治体の記念事業で、当時の群馬県小寺弘之知事の発想で「映画の内容には一切口出ししない」と小栗康平監督を信頼しきって作られた映画。そして、この映画が多くの県民によって作られた経緯を知り、群馬県民度の高さを感じてしまった。

 

 ちなみに、この映画が作られた中心的役割となったところが、僕が群馬県ヤマギシの村・榛名実顕地に行く時に乗っている吾妻線中之条町なのだ。
 そこの廃校を、臨時議会を開き千百万円の費用捻出して改造し「伊参(いさま)スタジオ」として、スタッフ、キャストが寝泊まりして映画は生まれたという。

 いまでも、そこを見学できるらしい。機会があればぜひ立ち寄ってみたい。