新聞を読んでのおしゃべり

新聞を読んでいて・・・


◇その1・宇宙飛行士・野口聡一さん

 12日の朝日新聞朝刊の「オピニオン」紙面で、今年5月に、3度目の宇宙飛行(国際宇宙ステーション滞在)から帰還した宇宙飛行士・野口聡一さんのインタビュー記事が掲載されていた。

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 野口さんが宇宙に興味を持ったきっかけは、今年6月に亡くなったジャーナリストでノンフィクション作家の立花隆さんが、NASAの宇宙飛行士たちの宇宙体験後を、丹念に取材して25年ほど前に刊行した書籍『宇宙からの帰還』だと言う。
 実は僕も、この『宇宙からの帰還』には強烈な衝撃を感じながら読んだ記憶があり、先日、立花さんの逝去のニュースに触れた後、本棚から探し出してじっくりと再読。その感想を村岡到さんが編集長で刊行している季刊誌『フラタニティ』に載せた。

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 立花隆さんは「宇宙から帰還した宇宙飛行士はほとんど誰もが、彼らの人生観を大きく変えるほどの精神的に深い体験」をしていると語り、科学者であり理系的頭脳の持ち主である彼らが、地球の美しさと宇宙の闇の深さに衝撃を受け「地球が宇宙の奇跡として存在」しており、そこに「人知を超えたある意思」が働いていることを、宇宙を体験した飛行士たちが感じている事実を『宇宙からの帰還』で明らかにしている。

 そんなことで、この野口聡一さんのインタビュー記事を興味をもって読んだ。
 野口さんが宇宙で滞在した国際宇宙ステーションは、地球の上空約400キロを秒速約7・9キロメートルで回り、90分で地球を一周し、45分おきに昼と夜が変わるらしい。
 そんな宇宙での野口さんの体験を、少々抜粋して紹介する。

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 ガガーリンは「地球は青かった」と言ったことが有名だが、野口さんは「私の印象はどうかというと、確かに青かったですが、それ以上に印象的だったのは『まぶしさ』でした。太陽の光を反射する地球の圧倒的なまぶしさに驚いたのです。そして光まばゆい地球と、真っ黒な世界である宇宙のコントラストに衝撃を受けました。4K、8Kのどんな精細な映像でも伝えられないでしょう」と語り、
 その宇宙の「黒」はどんな黒さなのかは「漆黒でしょうか。地上で見る物体の黒は、あくまでそれに反射した光の色からの黒です。でも宇宙では、光は永遠に真っ暗な世界に吸い込まれたまま、戻ってきません。だから、漆黒と言っても色とは違う。何もない黒です」と語る。
 そして、船外活動で地球の『まぶしさ』と宇宙の『闇』を同時に見たときに「生命があふれる地球と完全なる死が満ちている宇宙とが、ごく薄い大気の層を挟んで向かい合っている。船外活動で、身ひとつで宇宙空間に出て行くのは、この世とあの世の間に流れる『三途の川』を渡るような感覚、と表現できるのかもしれません」と語っている。

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 野口さんか過去3回の飛行での船外活動の作業場所は船の真ん中あたりだったが、今回の作業は「中心部から約50メートル手すりを頼りに歩いた船体のいちばん先です。手すりの端を持って身を乗り出すと、目に見えるのは何もない世界、生命の存在を許さない完全なる死の世界です。気配もないし、音もない。命ある文明社会とつながっているのがぼくの左手だけだと実感しました」と言っている。
 さらにインタビューでは、無重力の宇宙は「上・下」と「縦・横」という概念が消える世界だが「頭が上で、足が下と思いたい気持ちは残ります。面白いのは、機械は瞬時に『無重力仕様』に切り替えられますが、人間の感覚はそうはいかないということです」と語り、これから人類がどんどん宇宙に進出したら、将来、重力を基本にした社会規範は無効になり「例えば『上下関係』という規範も意味がなくなるかもしれません」とさえ言っているのが興味深い。

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 最後に野口さんは「宇宙に行くとは『引き算の世界』である」と言い「宇宙に向けて地球から飛び立てば、どんどん何かが欠けていきます。地球の家族や友人との物理的な距離は離れるし、ロケットの燃料も上がるたびに減っていく。重力もない。食べ物も制限される。船外活動で夜になれば視覚もなくなる。つまり、宇宙は永遠に続く『引き算の世界』であり、最後に何が残るのか、残ったものとどう折り合うかが問題になります。結局私たち人類にとって必要なものは全部地球にある。宇宙に行くと、地球がパラダイスであるという真実をよく理解できます」と語っているのだ。

 

◇その2・作家・柳美里ゆうみり)さん
 朝日新聞朝刊の連載コラム『折々のことば』は、僕は毎日、楽しみにして読んでいるのだが、13日朝の紙面で哲学者の鷲田清一さんが紹介していたのは、『JR上野駅公園口』の著者・柳美里さんの言葉だった。

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 柳さんの『JR上野駅公園口』は、高度成長時代は出稼ぎ労働者として家族の幸せを願って働き生きてきたはずの男が、自分の居場所をなくして、ホームレスとして上野公園で暮らさざるを得ない男を描いた作品なのだが、その男の魂の叫びに衝撃を受けながら読んだ。まさに、柳さんが言う「この世から剥離しかけた人」をテーマにした物語なのだ。
 この本の主人公の設定も、柳さんが東日本大震災後に移り住んだ福島県南相馬市(以前は相馬郡)の出身だった。
 この『JR上野駅公園口』は、2020年の全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞している。

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