小林武彦著『生物はなぜ死ぬのか』を読む

 本好きのミドリさんではあるが、珍しく生物学の本を読んでいたのに興味をもって読ませてもらったのが、この『生物はなぜ死ぬのか』とい新書だ。

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 生物学の書籍なので、僕には難解な部分もあったし、細かなことは飛ばし読みでもいいかと思って読み進めたが、分かり易い図解もあり、例として取り上げる話が面白く興味ある内容で、「いま、生きている生物は、いかに必然的な存在で生き続けているか」そして「死は避けることのできない大切な生物の営みのひとつ」であることがわかる書籍だった。

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 本書の冒頭に、天文学者が今一番ワクワクして注目している話が書かれている。
 それは、TMTという口径が30メートルもある巨大な望遠鏡が近い将来完成することだという。
 なぜ注目しているかというと、宇宙誕生が始まった138億年ほど前の「ビックバン」の光景が、それによって見られるというのだ。
 望遠鏡で遠くの天体を見るとはどんなことかというと、例えば10億光年(1光年は光が1年間に進む距離)離れた星を観測するというのは、10億年前に発せられた光を見ていること。地球から太陽を見ているのは8分19秒前の姿。現在観測できる最も遠くの星を捉えたのはハッブル宇宙望遠鏡が90億光年離れたイカロスという星。そして、現在プロジェクトが進んでいるTMT望遠鏡は138億光年離れた光景を見ることができるというのだ。
 その図解も分かり易く載っている。

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 そんな宇宙の話から始まって、生物誕生が恒星(地球の場合は太陽)との距離による微妙な温度によって奇跡的に起こったこと。その生命誕生の確率は、「25メートルプールにバラバラに分解した腕時計の部品を沈め、ぐるぐるかき混ぜていたら自然に腕時計が完成し、しかも動き出す確率に等しい」それくらいの低い確率でゼロではなかった結果だという。
 そんな話が、RNA(リボ核酸)やDNA(デオキシリボ核酸)の構造説明から、細胞の分裂や複製や遺伝子などの説明、それらの奇跡の「正のスパイラル」によって、偶然が必然になって生命が誕生したことを説明している。
 そして、もし、宇宙人が地球を見たら、奇跡的偶然が生みだした生物の多様性に驚くことだろうと、なぜ、多様な生物が地球上に存在しているのかを説明している。
 その上で、生物学からの視点で「生物の死とは何か」を考察し、「ヒトが、生物が、死ぬのは生き残り戦略であり進化の為である」として、老化のシステム、ヒトの体内でわざわざ細胞を死なせるプログラムが遺伝子レベルで組み込まれていることを説明。
 その説明の中に、鮭が生まれた川を遡上し、卵を産み、死を迎える例などもあり、難解な箇所もあるが面白く読むことができた。

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 結論的には──生き物が生まれて来るのは偶然だが、死ぬのは必然だという。その死は、生命の「進化」に欠かせないもの、種の多様な選択肢を絞り込むという「進化」を実現するためにある。──らしい。
 そんな「なぜ、私たちは“死ななければならない”のでしょうか?」を前向きに、ユニークに考察している新書だった。