半藤一利さんの書籍は何冊か読んでいたが、まだ、この『ノモンハンの夏』は読んでいなかったので読んでみた。
第二次世界大戦の開戦直前の1939年に、日本とソ連が軍事衝突した「ノモンハン事件」。
この満州国とモンゴルの国境を巡る争いを、半藤さんは緻密な取材とそこからの考察で、欧州などの世界情勢も含めて、その経緯を詳細に描いていた。
多くの人が本書を評論し絶賛しているので僕は多くを記さないが、本書「あとがき」で、半藤さんがこのように述べていることを紹介したい。
「それにしても、日本陸軍の事件への対応は愚劣かつ無責任というほかはない。手前本位ででいい調子になっている組織がいかに壊滅していくかの、よき教本である。とはいえ、歴史を記述するものの心得として、原稿用紙を一字一字埋めながら、東京と新京の秀才作戦参謀を罵倒し嘲笑し、そこに生まれる離隔感でおのれをよしとすることのないように気をつけたつもりである。しかしときに怒りが鉛筆のさきにこもるのを如何ともしがたかった。それほどにこの戦闘が作戦指導上で無謀、独善そして泥縄的でありすぎたからである。勇戦力闘して死んだ人びとが浮かばれないと思えてならなかった。」
このような「あとがき」を書かざるを得ないほどに、この満蒙国境での悲劇の原因を、日本陸軍の参謀本部作戦課と関東軍作戦課のエリート集団の「愚劣かつ無責任」な思考と行動を詳細に分析・考察して、その経緯を描いているのだ。
ぜひ、一読をお薦めする書籍である。
また本書は、日本だけでなく欧州各国が、第二次世界大戦へと歴史が流れた経緯を、詳細に知ることが出来る貴重な近代歴史資料でもあると思えた。