荻原浩著『 海の見える理髪店 』を読む

 この『 海の見える理髪店 』は、2016年に直木賞を受賞した作品だ。
 僕は、直木賞受賞作品なのにまだ読んでいなかった。通勤電車の中で読みやすい文庫化されるのを待っていたというのが正直なところ。
 荻原浩さんの作品は、山田風太郎賞を受賞した『 二千七百の夏と冬 』は読んだことがある。これも文庫化されてから読んだ。
 これは、2700年前の縄文時代から弥生時代に移りゆく時代を舞台に、縄文青年と弥生少女の恋物語を、縄文人弥生人が使う道具や生活様式や価値観の違いを、著者は豊かなイマジネーションを駆使して描き、壮大なロマン物語とした感動の作品だったことを覚えている。


 今回読んだ『 海の見える理髪店 』は、家族が題材にした6編の短編集。

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 表題作の『 海の見える理髪店 』と、2番目に収録されている『 いつか来た道 』、そして最後の『 成人式 』が、僕は印象に残った。


 『 海の見える理髪店 』は、両親の離婚を機に離ればなれになった父親と息子の話で、有名俳優なども通いつめたという伝説の理髪店に、息子とは名のらずに予約をいれて海辺の理髪店に訪れ、散髪をしながら語る店主(父親)の半生に触れる内容。
 『 いつか来た道 』は、独自の美意識を押し付ける画家の母から逃れて十六年、再会したらその母は認知症という、母親と娘の葛藤の話。
 『 成人式 』は、15歳の時に交通事故で亡くなった娘の思い出に縛られ続ける夫婦が、5年後、元気だったら出席しただろう成人式に、若作り変装して代理出席する話。
 
 ここに収録されている短編は、解説で斉藤美奈子さんも言っているように、家族の中での「過去の発見」と「過去との決別」で、新たな出発をするだろう予感を感じさせる、心温まる物語だった。