このタイトルを、新聞の書籍広告で見たときに、小説を書くためのハウツー本というか、作家になるための入門書なのかと思った。
ところが、書店で手に取ってめくってみたら、どうもそうではない。
「作家になりたいヤンキーといじめられっ子中学生が、小説界に殴り込み! 文学史上、空前のコンビ、誕生。」と紹介されていた。
物語は、いじめられっ子だった中学生の一真は、同級生から駄菓子屋での万引きを強要される。
その駄菓子屋の現場で、ディスレクシア(読字障害)の、やくざまがいの周囲に恐れられるヤンキーの登に捕まる。
登は一真の境遇を聞き、罰として一真に「小説の朗読をしてくれないか」と、意外な提案を持ち掛ける。
登は文字の読み書きができないが、一度聞いた物語は一言一句忘れないという特技があり、頭の中に湧き出すストーリーを生かして作家になることを目指していた。
一真は、看護婦の母と2人暮らし。仕方なくイヤイヤながら、母が勤務時間で不在の時間に駄菓子屋の2階に、朗読のために通う。
図書館の職員に勧められる名作小説を、一真が音読して、気になる部分でストップをかけながら、その朗読を聴く登。
いつしか2人は「面白い小説を作る」という目標に向かって、共にのめり込む。
たくさんの小説に触れ、登はそれらを換骨奪胎(かんこつだったい・着想や形式などを借用し、新味を加えて独自の作品にすること)してアイディアを練り、物語を生み出し、一真がそれを文章にして、小説を書く。
そして、文学賞に応募し、2回目で作家デビューを果たす。
覆面作家として話題になり、次々と執筆の依頼も来るが、しかし、次々に難題も起こり、波瀾万丈の日々。
ついに登は傷害事件を起こして刑務所へ。
ひとりになった一真には、小説を書くことが出来ない。作家を諦め目的も定まらないまま大学受験。
そんな時に、名作を朗読してカセットテープに吹き込み、刑務所の登に届けることを思いつく。大学で学びながらも、朗読のテープ吹き込みは続ける。
そして、進学塾で講師をしながら、17年の月日が経って、二度目のデビュー作を生みだす。
一真の心には「おれが死んでも、インチキなもん書くんじゃねえぞ」という登の言葉が蘇り、その約束を作家人生の絶対のルールとする。
この小説の最後は、「ぼくは、そうしてこの小説を書いた。」の一文で終わる。
登の、やくざまがいのハチャメチャな暴力シーンあり、祖母との、こちらもハチャメチャな愛情と絆が書かれていたり、一真の恋愛や、出版業界の複雑な思惑と、作家を生みだすだけに力を注ぐ編集者が出てきたりと、実に読み応えのある物語になっている。
さらに、この小説の魅力は、数々の名作のエキスにも触れることが出来ることだ。