小野寺史宜著『 ナオタの星 』を読む

 書店で平積みされている文庫本を眺めていたら、「2019年本屋大賞第2位『ひと』の著者が放つ、傑作青春小説!」と書かれている帯に目がとまった。


 小野寺史宣? この名前の作家を僕は知らなかったし、小説も読んだことがない。
 一瞬、思った。以前に読んで面白かった『青少年のための小説入門』の著者かな? 
 いや、違う。あの著者は久保寺健彦だった。
 でも、本屋大賞第2位に選ばれた作家なら裏切らないだろう。
 そんなことを考えていたら、どんな小説を書く作家なのだろうと、興味が湧いてきて、ついつい買って電車の中で読み出した。

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 内容は、会社をやめてシナリオライターを目指している青年。
 年齢は30歳。2年がんばっている。2年続けて最終選考に残るが落選。
 会社勤め時代に貯めた貯金もそろそろやばくなって、同期で入社以来7年付き合っていた彼女にもフラれ、その反動で入った風俗店で、美人だからと指名した相手が小学校3年生の時の同級生で、みんなのマドンナ的存在であり初恋の女性。まったく予想外の気まずい再会。
 小学3年生以来の彼女について探りを入れた同級生は、年報2億8千万円のプロ野球選手として活躍しているが、夫婦間が上手くいってない妻の尾行をして欲しいと、思いがけない仕事を頼まれてしまう。
 尾行は見事失敗して、その美人妻とはお茶のみ友だちになり、ゾンビ映画の感想を語り合う仲になる。
 一方、ワンルームマンションの階上に住む女性とは、生活音がうるさい苦情を言ったことがキッカケで部屋を行き来する仲にもなる。
 そんな3人の女性との間に、いろいろな事件が起きて、意外な付き合いになるが、それ以上の関係にはならない。
 自分にはシナリオライターとしての能力がないのかと思いつつも、シナリオを書くこと以外は確たる信念もなく流されるままに生きる主人公。 
 そんな展開の中での、主人公や幼馴染みの同級生や女性の些細な心理描写に、不思議と引き込まれる。

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 小野寺史宜という作家は、登場人物一人ひとりの心理描写に、不思議な魅力を感じる作家である。
 妙に純粋な青年の心理、罪悪何なんか感じてはいないのに、それ以上踏み込んだ関係になれない心理、意識しないのに相手を大切に思う心理など、巧みに描いている。
 そんな主人公と物語の展開に、読者は、まどろっこしいというか、じれったい気持ちがフツフツと湧いてきて読み続けてしまう。
 最後は、書くことに興味のなかったはずなのに作家として売れている妹から、自分の小説が映画化されるので、そのシナリオを書いてくれないかと持ち込まれる。
 結局は、最後に救ってくれるのは身内かなと思いながら、妹の小説のシナリオ化に取り組むと、今までにない高揚感を感じてアイデアも浮かぶ。
 そんな、前に進み出す光を見つけた主人公の青年に、読者(僕)はホッとして最後のページをとじることができた。


 そんな不思議な魅力ある小説を描くのが、小野寺史宜という作家だった。