鶴見和子さんのDVD『短歌百選』

 先週は、このブログに、免疫学者の多田富雄さんと遺伝学者の柳澤桂子さんの往復書簡『いのちへの対話 露の身ながら』のことを書いたが、多田さんは鶴見和子さんとも往復書簡を交わしていた。
 鶴見和子さんは、今回の会の新聞「けんさん」で追悼特集を掲載した哲学者・鶴見俊輔さんのお姉さんだ。
 多田さんと柳澤さんの往復書簡を読んだり、「けんさん」掲載で鶴見さんの文章を読み直したりしていて、和子さんのことを思い出して、「あるはずだ」と確信を持ちながら本棚を探ったら、DVD『鶴見和子・短歌百選「回生」から「花道」へ』が出てきた。
        
 実はこのDVDは、2006年11月にあった「鶴見和子さんの偲ぶ会」でいただいたものだ。
 和子さんは、1995年にヤマギシズム学園高等部生が演じたミュージカル『農が好きだ』を、東京の国立教育会館虎ノ門ホールで公演したときに、鶴見俊輔さんと同様に推薦人になっていただいたし、当日は観劇に足を運んでいただいた。
 そんなお付き合いがあったので、「偲ぶ会」にいかせてもらった。
 もう昔のことで、「偲ぶ会」の内容のことは記憶が定かではないが、著名の方々が大勢来ていて、その中に車椅子に乗っている免疫学者の多田富雄さんの姿もあった。
        

 このDVDをあらためて聞かせてもらうと、鶴見和子さんも凄い人だったのだなあと思う。

    半世紀死火山となりしを轟きて煙くゆらす歌の火の山
 
 この歌でわかるように、和子さんが脳出血で倒れ、病院に運ばれたときのことを、このように書いて、DVDでも語っている。

 『・・・救急車を呼んで病院に行ったの。その日は点滴で、だから動いちゃいけない。だけどぜんぜん意識を失わなかった。点滴をして寝ていると、次々に夢を見るの。その夢が言葉になって、歌になって、身体の底からこみ上げてくる。これはもう、わたしどうなったのか全然わからない。気がちがったんだと思った。
 だけど、言葉になって歌が出てきたために、わたしは言葉を失わないで、歌を杖として生と死の境を飛び越えた。これはとっても不思議な経験でね。今のわたしにとって、歌がいのちなの。』

 和子さんは倒れたあとも、何冊もの著書を出しているが、歌集も『回生』『花道』『山姥』を出している。
 ここにあるDVDは、その『回生』と『花道』からの歌だ。
 収録されている歌を4点だけ紹介する。


     外の空気はこんなにおいしいものか 真冬日の太陽の下に我生還す 


     病院のふきぬけの上の天空に 冴え渡る月を見つ雛の夜の幸 


     萎えし掌につつじの蕾触れさせて 燃えいづる若き生命いただく


     萎えたるは萎えたるままに美しく 歩み納めむこの花道を