この映画の予告を観たのは、吉永小百合主演の『ふしぎな岬の物語』を観たときだと思うが、この映画については「北海道の美瑛の風景がきれいだなあ」と心に残っていた。
その『愛を積むひと』を観た。
佐藤浩市と樋口可南子が演じる熟年夫婦。
野村周平と杉咲花が演じる若い恋人。
北海道・美瑛町の美しい大自然と、四季折々の彩り豊かな風景の中で、夫婦の愛、若い恋人同士の愛、過去の娘の過ちを許すことができない父親の愛など、それらの愛の行方が、静かに描かれ、胸に迫ってくる。
これから観る人の邪魔にならない程度に、簡単にストーリーに触れる。
東京の下町・大田区の町工場。
人付き合いが嫌いで、経営面は妻・良子(樋口可南子)に任せっきりの篤史(佐藤浩市)。
経営が行き詰まって工場を閉鎖し、残りの人生を北海道で過ごそうと決意し、債務を整理した残りのお金で、北海道の美瑛町に、かつて外国人が暮らしていた家を手に入れて暮らす。
趣味もなく仕事一筋だったゆえに、篤史は手持ちぶさたになってしまう。
そんな彼のために良子は、家を囲む石塀作りを篤史に頼む。
良子は以前から患っていた心臓病が予断を許さないほど悪化しているが、夫を心配させたくないと、元気に振る舞いつつ、自分が亡くなった後も、夫の心を支えられるように、いろいろなところに手紙を忍ばせる。
石塀作りを手伝う寡黙な、何か訳ありの青年・徹(野村周平)と、その恋人・紗英(杉咲花)を温かく見守る良子。
石塀づくりの完成前に、良子は他界してしまう。
何もできない、深い悲しみに沈む篤史。
そんな篤史が、妻の手紙や、徹や紗英や紗英の父親(柄本明)と、家族のようにつながっていく。
そんな中で、過去の過ちで許せなかった娘・聡子(北川景子)との関係も修復される。
ふぞろいの石が支え合って組み込まれた石塀のように、それぞれの相手への思いが、時間とともにゆっくりと「愛」という形で浮かび上がってくる。
舞台となった美瑛町の美しい風景と一緒に、それぞれの愛で人と人を支え合うという感動が、胸に迫り、「こんな映画(物語)に、僕は弱いんだよなあ。」と思いながら、涙腺を静かに刺激されてしまった。
熟年夫婦には、自分たち夫婦の日常に多かれ少なかれ重なり合うものがあるだろう。
そんな意味からも、お薦めの映画だと思う。
さすが朝原雄三監督の映画だ。とにかく、感動の映画には違いない。