この新書『四次元時計は狂わない−21世紀文明の逆説』は、立花隆が「文藝春秋」の巻頭随筆に2011年5月号から約3年間書き続けたものをまとめたものだ。
さすが「知の巨人」といわれる立花隆の随筆である。
政治、経済、文化、歴史と多岐にわたる著者の緻密な取材をもとにした考えを述べられていて、知的興奮を感じながらのめり込んでしまう。
例えば、
新書タイトルにもなっている、日本でいま世界最高の時計が作られつつある話の「四次元時計」は、百億年に1秒しか狂わないそうだ。和時計も含めた時計の歴史や、時間や時計についての認識も改まる。
「太陽の謎」では、世界に誇る超高分解能の日本の太陽観測衛星が、太陽の謎を次々と解明する大発見をしていること。そして、現在の太陽の黒点や磁気反転の狂いが、ここ数年の異常気象と結びついているのではないかとの話など、興味をそそる内容だ。
「ベトナムの真実」では、ベトナムが北ベトナムの立場から作ったDVD映画を観ての話なのだが「私達はベトナム戦争について、何も知らない」と感じたと書いて、アメリカがあれだけの戦費と犠牲者を出しながら、撤退を余儀なくさせたのは何だったのかを述べている。
「有機合成新時代」では、科学者が今世紀最大の課題としている「人口光合成技術」について書いている。いま、太陽エネルギーを「食物」に変えられるのは光合成が出来る植物だけで、動物や人間はそれを食べて生きるエネルギーを得ているが、この技術が実現すると「食物、エネルギーのみならず、人間が必要とするほとんどあらゆる物質を有機合成で太陽エネルギーから作り出せる時代になるわけで、文明の様相は一変するだろう。」と、その夢のような技術の可能性を取材している。
その他にも、
読み出したら興味津々、知的興奮をそそる話題が集約された内容である。
また、日本の技術力がこんな分野でも世界に先駆けているのかと驚かされて、日本人として誇りに感じられる新書だ。