NHK教育「こころの時代〜幸せの形と向き合う」を観る

 前にもブログに記したが、日曜日の朝5時か放送のNHK教育「こころの時代」を、僕は楽しみにして起きる。

 今回は、「幸せの形と向き合う」というタイトルで、24年間にわたってブータンの研究に取り組んでいる宗教人類学者で僧侶の本林靖久氏が登場し語っていた。

 ブータンは「国民総幸福(GNH)」を提唱し、国民の9割以上が「幸せだ」と答えるという国だ。
 それについては、前にも聞いたことがあるし、新聞でも読んだことがあるが、本林氏は現地調査の実例を通してブータン人の国民性や人生観を分かりやすく解説をしてくれた。
 ここに、その時のメモを頼りに、氏の話をまとめながら記してみると、

◇その1「電気とツルのどちらが大事か」という話。
 ブータンのある村に、電気を引くために電線を設置する計画が持ち上がった。しかし、その村はオグロヅルの越冬地でもあり、電線を設置すると、ツルの飛来の邪魔になる…と分かった。
 結果は、村民も計画した政府も「電気よりもツルの保護を優先」し、開発発展を優先せず、不便を覚悟で40W程度のソーラー設置に変更したと言う。
 そこには、自然と動植物と共存、すべて同列で大切な存在であって、自分の存在も、動植物も含めた他者の存在とのつながり、関係性の中で捉えている考えが、国民一人一人の意識の根底にあるからだと言う。
 
◇その2「少欲知足というブータンの人々の価値観」
 この価値観をよく表している民話に「ヘレヘレじいさん」というブータンで古くから親しまれている物語があるそうだ。
 日本の「わらしべ長者」(一本のワラを次々と交換して、お金持ちになっていく…)とは、まったく逆の話。
 身寄りはないけれど村の人気者のおじいさんが、ある日、畑を耕していると大きなトルコ石を発見する。「これを売ればお金持ちだ」と思ったおじいさんは、市場に向かうが、途中で次々と村人に出会い、トルコ石を馬と交換し、その馬を年老いた牛と、老牛を羊と、羊を鶏と交換してしまう。
 そして最後には、楽しそうな歌を歌っている村人と出会って、その歌を教わり鶏を渡してしまう。
 おじいさんは、その歌を歌いながら帰って、その後も村人に慕われながら、貧しくとも楽しく暮らすというお話。
 ブータンの人は、不利な交換を指して「ヘレヘレじいさんのようだ」と言うが、それは決してマイナスの価値観でなく、むしろ「ヘレヘレじいさんのような生き方」に憧れているらしい。
 そこには、一見すると不利な交換だが、モノやお金ではなく、人と人とのつながりの中で生きていくことが何よりも幸せであって、利己的な自分だけの幸せを求めようとはせず、他人に惜しみなく施すことが大切だと考え、その実感の中で幸せを見ているのだと言う。

◇その他にも
 「よく言われる幸福の定義〝幸せ=財÷欲望〟とは対極」という話。
 家庭でどれだけの〝物〟を所有しているかを、世界各国の家庭を調査すると、日本の家庭が一番多くて(確か、そう言っていた)、ブータンの家庭が一番少ないのだそうだ。  また「ブータンの人々が幸福を感じているのは、真剣に死と向き合っているから」と本林氏は語る。
 日本人のように「お墓がないのは、はかない人生」などとは考えていない。大きな世界の循環の中で人間の存在をみている。この私の命は私だけのものでなく、たまたま私が授かっているに過ぎない。死もそんな中で位置づけ、死を見つめながら今を生きるという、チベット仏教の「六道輪廻」の考えを元とした、死を含めた幸福を実感しているのだそうだ。

 そんな内容のブータン人にみる幸福論を語っていた。
 今回も、なかなか見応えがある番組だった。