新聞を読んで思ったこと

昨日の新聞に、福島原発の事故現場の責任者で退任した吉田所長が
『1号機の原子炉で始めた海水注入を東電本店が中断するよう求めたが、吉田昌郎所長が現場の作業員に「今から言うことを聞くな」と前置きして「注水停止」を命令、注水を継続していたことが分かった。』という記事があった。
        
 僕はこの記事を読んで、吉田所長の人間性に拍手を送りたくなった。
 現場の状況も知らずに本社は指示を出してくる。現場のこの緊急事態においては「指示」を守れば取り返しの付かないことが起こることを自分は知っている。しかし、本社指示は「指示」である。「指示」を遂行しなければ縦社会「組織」は成り立たない。
 そこでやったのが形を整えて実は「逆らう」方法。
 部下に前置きで「今から言うことを聞くな」と言って命令を伝える。
 大なり小なり、縦社会の組織の中の中間管理職には身に覚えのある処世術なのではないか。
 この大事故を前にして、「処世術」などとは言えないレベルで悩み、人類滅亡の危機まで考えて、自己を捨てた覚悟でもって、それをやった吉田所長に、僕は人間性を感じずにはいられない。 

◇そんなことを考えていたら、今日の朝刊に
         
『福島第1原発1号機で、炉心溶融メルトダウン)によって原子炉圧力容器が破損し、85%以上の核燃料が原子炉格納容器に落下して、床面のコンクリートを最大65センチ浸食したと推計・・』と大きく載っていた。
 「ええ〜!」と言うか、「やっぱり、そこまでいっていたのか!」と言うか、「今になって・・・」と言うか、驚きのニュースである。
 組織人である前に、何が最善かを考えられた人間・吉田所長の人間性に、僕はますます敬意の念を強くした。


◇蛇足の話
 僕の甥が某大手ホテルのコック見習いだったときの話。
 忙しいときには、一日中、熱い鍋に手を真っ赤にしながら鍋を洗い、食器を洗い、片づけてはセッテンブと、コック見習いは休む暇なく動き回らなければならないらしい。
 そんな日に限って、最後の片付けが終わる少し前に、ナンバー2のシェフ・Aさんは、決まってスイカを床に落とすのだという。
「うっかりして、落として割ってしまったよ。仕方ないから、みんな、食べるか〜。」と笑ってその場を立ち去るのだという。
 故意に過失をしてまで、そうしたくなるAさんの気持ちと配慮。
 縦社会の組織の中にも、そんな人間がいるから、組織は保たれ部下は付いてくる。それが日本の組織の凄いところ。

  吉田所長の話から、ヤマギシに参画する前の縦社会にどっぷり浸かってサラリーマンをやっていた頃のことや、こんな話まで思い出してしまった。