案内所は駅前「雑居ビル」にある

 東京案内所は高田馬場駅前の雑居ビルの4階にある。
      
 雑居ビルというのは、いろいろなテナントが入居していて、不特定多数の人の出入りもあるから嫌う人もいるが、思わぬ出会いがあったり、思わぬ繋がりを発見することもある。

 少し前の話になるが、
 朝、7階あたりで店を開いている「カツラ屋」さんに、エレベーター前で出会って「天気が不順ですねぇ。暑くなったり、急に雨が降ったり…」そんな挨拶を交わした後で、
「前の会社の同僚の方、Sさんね。実は、亡くなりましたよ。癌で。」と教えてくれた。
 どうして、そんな会話になったか、どうして「カツラ屋」さんを知っているのかというと、僕が「カツラ」を利用しているからでは断じてない。
 以前にその社長(店主)さんから「NAOJI〜SAN(実際はちゃんと僕の姓で呼んだ)って、昔、T電機にいたそうですね。」と、ビルの避難訓練の時に声をかけられたのだ。
 その後に、
「実は、T電機を定年になった人が、前々からうちのお客さんでいてね。あなたをよく知っていて、バリバリ仕事していたのに、ある日、突然、あっという間に会社を辞めてヤマギシに行ってしまった。後から、生き方を変えるというような挨拶状が届いてたけど、ここに来てみたら彼が言っていたヤマギシが同じビルにあったんで驚いた。」
「毎年、年賀状はもらうし、元気なことは知っていた。」
「当時は、急に会社を辞めて大丈夫なのか、バカなことするな、と心配したり、そこまでして、やりたいことがあるのかと不思議に思ったけど、それで良かったんだなって、定年になって、否応なしに仕事がなくなると、よけいにそう思う。」
 こんな事を言っていたと「カツラ屋」さんに教えられた。
 名前を聞いたら、部署は違ったがほんとうによく知っていた先輩なので「4階に寄って下さいって、伝えて下さいよ。」と言ったら
「寄って会っていったらどうですかって私も言ったんですがね。カツラをしていたのは会社では内緒にしていたんでねぇ…って、恥ずかしいからって、言ってましたよ。」と、寄るのを躊躇していたらしい。
 そうか、あの人のいいT電機時代のS先輩が亡くなったのか。
「カツラだなんて知らなかったな。僕が会社を辞めた以降のことかな。恥ずかしいなどと言わずに、寄ってくれたら良かったのに・・」と思った。
 それで、僕は先ほど、年賀状の宛先を書くときに使う住所録に、×マークを付けた。

 僕も、妻に「後がさびしくなってきたわね」と、それも朝、玄関で靴を履く時などに言われてグサリとくるけれど、それも気にしない、そんなことも笑い飛ばせるNAOJI〜SANになろうと思っているのですよ、S先輩。   合掌