斉藤幸平著『ゼロからの「資本論」』を読む

 斉藤幸平さんの『人新世の「資本論」』は、刊行された一昨年に何人かの有志で「ZOOM読書会」を6回ほどやって感想を共有したし、NHKの「100分de名著」で取り上げ放映された機会にも欠かさず観た。
 今回読んだ『ゼロからの「資本論」』は、『人新世の「資本論」』の続編的内容で、NHKテキストに加筆した本とのことで、早速、読む。

               

 『人新世の「資本論」』よりも読みやすく、わかりやすい。内容も具体的だ。
 前段では、資本主義における「労働」「貨幣」「価値」などをわかりやすく考察し解説してくれた。
 後半では、『人新世の「資本論」』で斉藤さんが提言していた「脱成長コミュニズムへの移行」が、僕にはいまひとつ具体的イメージが読みとれず、曖昧な印象を受けて未消化だったのだが、今回は、これからの目指すべき社会像と、それへの可能な移行が具体的に描かれているように感じた。

 斎藤さんのマルクス評価、資本論評価には、いろいろと異を唱える人もいるが、斎藤さんはマルクスの晩年の思想に注目して、『資本論』には収められなかったものにこそ、マルクス思想の真価があると言っている。
 それを、本書144Pにはこのように記している。
──マルクスの自然科学研究は、つい最近まで研究すらされずに長年無視されてきたのです。それがなぜ知られるようになってきたかというと、新たな『マルクス・エンゲルス全集』の刊行を目指す「MEGA(メガ)」という国際プロジェクトが進められているからです。
 MEGAはもともとソ連東ドイツで始まったプロジェクトですが、1990年代以降は各国から多くの研究者が参加し、最終的には100巻を超えるという大規模プロジェクトです。既刊の著作のみならず、草稿やマルクスが書いた新聞記事、書簡、メモ書きもすべて網羅することを目指していますが、なかでも特に重要なのが、MEGA第4部で初めて刊行される膨大な量の研究ノートです。──

 今まで語られてきたマルクスや『資本論』でない視点で、マルクス思想に注目している点が、斉藤さんなのだ。僕はそこに関心を寄せて、今回も読んだ。
 ちょっとだけ、それに触れると、
 斉藤さんはマルクスは、商品や貨幣が力を持たないような社会への変革を目指していました」「貨幣なしで暮らせる社会の領域を、アソシエーションの力で増やすしかないのです」といい、社会の「富」が「商品」として現れないような社会をマルクスは構想していたのだという。
 さらに晩年のマルクス「各人はその能力に応じて、各人にはその必要に応じ」た社会を構想し、社会の「富」を「コモン(共有財産)」としてシェアするためには、等価交換を求めない「贈与」、つまり、自分の能力や時間を活かして、コミュニティに貢献し、互いに支え合う社会を描いていたという(本書200P)。
 
 もう一度、読み返してみようかと思える書籍であるが、「読み終わったら、私に回して!」と妻が催促しているので、先ほど、妻に渡してしまった次第。