今こそ変えねばならないのは「社会ではなく私たちのまなざし」

 年末ということで、今年読んだ本を振り返って、一昨日と昨日と2冊の本の読後感想を再アップして紹介した。
 もう一冊、是非とも今年読んだ本で「お薦め」したいのがある。

 この書籍、ヤマギシで開催している1週間の合宿セミナー「特講」(年末年始にかけて三重県ヤマギシの村を会場に昨日から開催中)にも通じるものがあると僕は感じた。
 
◇ハナムラチカヒロ著『 まなざしの革命 』(河出書房新社

    

 では、どんな本で、どんな論点なのかを簡単に紹介する。


 先ず、「著者のハナムラチカヒロさんとは、どんな人物なのか?」と検索してみたら、「ランドスケープアーティスト、研究者、俳優。大阪公立大学(旧大阪府立大学)准教授」とあった。
 さらに「ランドスケープアーティストってどんな職業?」と検索したら「人間の知覚を前提とする景観(ランドスケープ)を造作物と一体的に構想し、自然と人間の良好な関係の構築を目指すランドスケープデザイン。造園技術を駆使し、それを芸術の域に高める庭師がランドスケープアーティスト」とあった。

 そのハナムラチカヒロさんは、本書の「はじめに」で、次の様に書いているので、それを抜粋しながら紹介する。

──多くの市民は善良であり、心根が悪いわけではない。そして多くの有識者や企業の経営者たちは聡明であり、決して頭が悪いわけではない。誰もが日々、どうすればこの社会を良くできるだろうかと考え、努力を重ねている。それなのに、なぜ世界は一向に良くならず、ますますおかしな方向に進むように見えるのだろうか。特に2020年のパンデミック以後、先行きが見えない社会状況に誰もが不安に思い、うまくいかない現状に皆が憤っている。あちこちで聞こえるのはこの社会が間違っており、政治が間違っており、人々が間違っているからだと主張する声だ。間違えている社会に対して、間違えていない自分がいる。そして間違えている相手を正さねばならない。誰もがそう思いたい気持ちはわかるが、それは本当にそうなのだろうかと立ち止まってみたくなる。── こんな書き出しで始まり、

──私はこれまで「モノの見方」とその「デザインの方法」を研究してきた。通常、デザインと言うと、何かの対象物を設計することを指している。だが、私の研究してきた「風景のデザイン」は、眺められる対象物や環境だけではなく、眺める側にいる「自分の見方」も設計の対象にしている。同じ場所や同じ出来事であっても、私たちの見方が変われば、大きく意味や価値が変わる。だから新しい見方を設計すれば風景は新しくなると考え、「まなざしのデザイン」という概念のもと、これまで実践的な研究を進めてきた。──

──私たちにはすでに見解や立場があって、その色眼鏡を通して見ていることが多い。そして、多くの人は自分が色眼鏡をかけていることには気づかず、その色眼鏡の存在が無意識になったまま、眺めている出来事を「現実」だと思い込んでいるのだ。だが、その色眼鏡を外したり、取り替えると、同じ物事に対して違う現実が現れてくることがある。──と、断言して、

──ところが、社会はますますその正反対の方向に向かいつつある。情報化社会が進むほど、私たちは自由になるどころか、私たちは自分の見たいものだけを見ていて、これまで以上に盲点が増えている。自分の先入観や色眼鏡を強めていき、それ以外の視点や価値観があることを認められなくなっている。誰もが不寛容になると社会には大きな分断が生まれる。パンデミックを機に社会が大きく変わっているにもかかわらず、これまで正しいとされてきたこと、今正しいとされていることを見つめていると大きな間違いを犯すのではないか。──と、「自分のまなざし」の盲点を警告している。

 その警告はこのようなことだ。
──私たちが最も見えていないのは自分の見方である。私たちは自分が当たり前だと思うものは問題にしない。それどころかその存在にすら気づかないことがある。そしてその盲点を生み出すのは、自分が間違っていないという思い込みである。だがその盲点の存在に一度気づいてしまった瞬間、まなざしに革命が起こる。今まで見えなかったことが急に違って見え、物事の見方が反転するのである。自分のこれまでの見方を知ったときの衝撃は大きい。急に状況が見え始め、文字通り世界の見方が変わってしまう。そのまなざしの革命は社会を変えるよりも大きな力を持っているのだ。いや、実際に社会すら変えてしまい、本当の革命すら起こる。だから今こそ変えねばならないのは、社会ではなく私たちのまなざしなのではないか。私たちは世界を変えることはできないが、世界の見方は変えられる。── と、まさに僕たちが受講を薦めているヤマギシの1週間の合宿セミナー『特講』と通じるものではないか。

 そしてハナムラチカヒロさんは、
──本書では、各章で社会の広い範囲にわたるトピックを取り上げ、それぞれで当たり前になっている私たちの盲点の見取図を描いた。それによって私たちの見方が何かに囚われている可能性について一緒に考えるプロセスを辿りたい。特に、「なぜ私たちが囚われるのか」について確認することを通して、どうすればそこから解放されるのかも一緒に考えられればと思う。そして同時に、この2020年から続くパンデミックとは一体どういうものであり、そこで何が起こっているのか、そしてそれらをどのように考えればいいのかということも、全体を通して考察している。── と、本書「はじめに」で述べている。

 本文では、「常識」・「感染」・「平和」・「情報」・「広告」・「貨幣」・「管理」・「交流」・「解放」と、9つのキーワードに章立てして考察し、現在の ─この社会の「仕組み」と私たちの「盲点」は何か?─ を、分析しているのだ。
 とにかく、「自分の〝まなざし〟は、どうなのか?」と省みる機会として、一読に値する著書であることは間違いない。
 是非とも、多くの人に読んでもらいたいと思う。