岩波ホールで映画『大地と白い雲』を見る

 映画『大地と白い雲』が、東京・神保町の岩波ホールで上映されているのを、新聞で知ったのは8月末だった。


 高田馬場の事務所で仕事をしていたときは、書店街の神保町は近く、仕事帰りの帰宅前にちょっと寄ることが出来たのだが、今の事務所の町田からは距離があるし、コロナ禍の緊急事態宣言中ということもあり、都心に出掛ける機会を逸していたが、思い切って神保町まで出掛けて鑑賞する。

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 この映画『大地と白い雲』は、内モンゴルが舞台となっている。
 ワン・ルイ監督は漢民族で、脚本と俳優陣は内モンゴル出身のモンゴル人だ。

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 物語の内容については後で触れるが、スクリーンいっぱいに、何処までも広がる空と草原、そこで草を食む羊、疾走する馬、それとは対局の、厳冬の厳しく過酷な荒れた天気、そんな風景に圧倒される作品だった。その悠大な大自然に触れるだけでも観る価値がある。

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 そんな環境に暮らす羊飼いの若い夫婦。
 そんな大自然の中で平凡に暮らす2人にも、時代の波はヒシヒシと訪れている。
 夫のチョクトは都会での生活を望むが、妻のサロールは今までの暮らしに満足して変えたくない。
 チョクトは現在の生活に満足できず、都会に出掛けてカラオケをしたり、飲んで騒いでケンカをしたり。そんな夫に腹を立てながらも愛している妻のサロール。
 妻をなんとか説得して都会に出ようとするが話は進まないというジレンマの毎日。

 トラックを買うためと言っては羊を売り、運転のアルバイトがあると言っては突然家を飛び出し帰ってこない。徐々に2人の気持ちがすれ違い始める。
 草原と都会という2つの異なる世界。大自然の中で暮らす「遊牧民としての誇り」と、スマホや携帯を使いながらの「現代的な生活様式と文化的な価値観」の間で揺らぐ若い夫婦を、微細に丹念に描いている。

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 夫のチョクトと妻のサロールは、ともに「愛する人と生きていきたい」と思っているのだが、ただそれだけのことが上手く噛み合わないのが悲しい。

 大草原の中の夕暮れ。サロール(俳優は歌手)が夫との惜別を胸に朗々と歌う旋律が、エンドロールになっても強烈な印象として残っている。

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 蛇足になるが、僕もモンゴル人と接していて、少々気付いていたモンゴル人の気質や価値観をも納得できる内容の作品だった。