柚月裕子著・文庫『 盤上の向日葵 』(上・下)を読む

 この物語は、昨年、ドラマ化されNHKBSで連続4回で放送されていた。
 僕はその時、2回ほどしか観る事が出来なかったのだが、「天才棋士とミステリアスな事件展開」という記憶は残っていて、文庫化されて書店に平積みされているのを見て、早速、読んでみた。

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 これから読む人のために、内容は詳しく書くのをやめようと思うが、埼玉県山中の工事現場から、白骨と共に、国内で7セットしかない伝説の名駒(初代菊水月作)が見つかる。
 その白骨死体の身元解明の捜査を進めるのは、埼玉県警の気むずかしいベテラン刑事と、かつてプロ棋士を目指し奨励会に所属していたでが、プロにはなれなかった新米刑事。
 その捜査進行と同時に、物語は「炎の棋士」の異名を持つ若手棋士(六段)の過去に遡り、不遇な少年期から、東京大学卒後に外資系企業を経てIT企業を起業し大成功するが、実業界から突如引退し、将棋界へ異例の転身する男の人生が展開する。
 数百万円とも言われる名駒の持ち主を追いながら、白骨死体の身元判明の捜査が進む。
 一方、天才棋士の生い立ちの謎が、将棋に魅された男たちの人生のなかで徐々に解明されて、事件と天才棋士が繋がる。

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 実に、ミステリアスな内容と、その展開に引き込まれる物語だった。
 物語の中で、身を削るような対局場面が「9一角」とか「8七歩」とかと、棋士の指し手で展開する場面が何箇所もあるのだが、将棋については駒の動かし方くらいしか知らない僕は、それの意味する対局展開を理解出来ずスルーして読み進めたのだが、将棋に見せられた棋士たちの「光と影、狂気と生気」の心理展開がリアルに描かれていて、その対局場面イメージを十分に理解できる迫力を備えた物語となっていた。
 そんな意味では、将棋に詳しい人が読んだら、もっと迫力ある展開を楽しむことができたのかもしれない。
 とにかく、この物語は、捜査する刑事と将棋に魅せられた男たちの、人間ドラマを描いた重厚なミステリーなのである。