吉田修一著『 路(ルウ)』を読む

 先日、NHKの3週連続土曜ドラマ『 路~台湾エクスプレス~ 』を観た。
 ドラマの原作が吉田修一さんで、その単行本が書店で平積みされていたのを知っていたのが、ドラマを観るキッカケだった。

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 この物語は、日本と台湾を舞台に、台湾高速鉄路(台湾新幹線)の日本受注決定から開通までの8年間、それに力を注ぐ日本と台湾の人々の物語なのだが、台湾新幹線開通までの奮闘物語というよりも、そこに登場する一人一人の人生模様に視点をおいた物語だった。
 3週観終わって、僕は「原作では、どうなのだろうか?」とフッと思ったのだ。
 決してドラマの完成度がどうという意味ではない。
 さすがNHKのドラマだと思えるもので、台湾に行ってみたいと思えるような風景描写や、台湾の人達の心温かい人間性も感じられたし、一つのプロジェクト目標に向かって、真面目に、律義に取り組む日本人達の姿も描かれていた。
 しかし、何となく、ドラマの展開と結末から「原作では、どうなのだろうか? 原作では、ちょっと違うのではないか?」と思ったのだ。
 そんなことで、吉田修一さんが書いた原作の『 路(ルウ)』を読んでみた。

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 一気に読んだ感じなのだが、ドラマ以上に心温かくなる物語だった。
 台湾新幹線開通を通して、歴史経緯も含めた台湾人と日本人という関係と、登場人物たちのその国境を越えて織りなす心の絆に引き込まれる内容だった。
 これから読む人の迷惑になるので詳しくは書かないが、登場人物それぞれの年代に応じて、それが単なるロマンチックな恋心や、一時の浮気や、日本統治下という背景から生じた差別意識の後悔だけに終わらず、丹念に、それぞれの心の内に抱える問題を描き、それに葛藤しながらの人間模様が読む者にジワジワと伝わる物語となっていた。
 製作時間の制限があるドラマでは、得ることができない原作『路(ルウ)』であることは確かだ。
 蛇足になるが、食べたことがない海鮮食材をふんだんに使った台湾料理が、いろいろ描かれていて、その度に「食べてみたいなあ~」とも思った。