モンゴル出張の飛行機で新田次郎著『芙蓉の人』を読む

 埼玉県のヤマギシの村・岡部実顕地のエツコさんから「7月26日からNHK土曜ドラマ6回シリーズで『芙蓉の人』という新田次郎さん原作のドラマが始まるそうです。知り合いのOさんが、後輩の指導にあたりながら1・2回を担当するらしいです。よかったら見てください。」とメールをもらった。
 新田次郎の『芙蓉の人』って、どんな小説だったかなあ〜、読んだかなあ〜、そんなことを思って書店に寄ったら、文庫コーナーの平積みの中にあった。
 モンゴル出張を一週間後に控えていた時だったので、機内で読もうと早速買って、手荷物カバンの中に入れておいて、出張時の機内で読んだ。
        
 この小説は、明治28年に不可能と思われていた富士山頂での冬季気象観測を試みた実在の夫婦をモデルにした物語なのだが、読んでみて思ったのは、富士山観測所に勤務し、通算400日以上も富士山頂に滞在した経験がある新田次郎だからこそ、厳冬の過酷な観測を臨場感たっぷりに描き切れたのだと思った。
 夫婦愛を壮絶な姿で描いた感動的な物語だ。
 明治時代という社会背景や当時の社会常識、男尊女卑の風潮が強く、今では考えられないような理不尽な男女差別が続いていた時代に、周囲の反対を押し切って、幼い一人娘を実家の両親に預け、夫の壮大な夢と信念を実現しようと行動する妻に、「こんな女性がいたのか」と驚かされるが、同時に、私財を投げ打って、日本の気象観測のために、世界に先駆けて私設の高所気象観測所を富士山頂に試みた人物がいたことにも驚かされる。
 そして、この夫婦を支援し、最後は観測小屋で病に苦しみながら観測を続ける夫婦を、命がけで救出する御殿場の村人たちに、目頭を熱くさせられる。
 この物語が、どのようにテレビ化されるか、楽しみだ。
 この小説のタイトルは、夫と共に富士山頂の観測小屋に籠った夫人の「芙蓉日記」からとったと著者あとがきに書いてあるが、富士山を「芙蓉の高嶺」あるいは「芙蓉峯」と呼んでいたことを、僕は初めて知った。
            
 テレビを観てから読むか、読んでからテレビを観るか、それは自由だが、お薦めの小説であることは確かだ。