荻原浩著『 ストロベリーライフ 』を読む

 会の新聞「けんさん」3月号に、三重県ヤマギシの村でイチゴ栽培をしているカワゾエさんを、編集委員がインタビューした記事を載せた。
 イチゴに情熱を賭けるカワゾエさん。なかなかいいインタビュー記事になった。
 その編集が終わった日の帰宅時に、書店に寄ったら文庫化されて平積みになっていた『 ストロベリーライフ 』というタイトルのこの本を見つけた。
 萩原浩さんの作品は、山田風太郎賞を受賞した『 二千七百の夏と冬 』と、直木賞を受賞した『 海の見える理髪店 』の2つしか僕は読んでない。
 どちらも、感動した作品だった。
 これは、農業問題と家族をテーマにした作品なので、期待して読んだ。

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 主人公は、静岡で農業を営む家庭の4人姉弟の末っ子でありながら長男。
 父親の期待に背き、農業は嫌だと美大に進み、東京でグラフィックデザイナーとなり、広告賞ももらうほどの才能の持ち主。
 独立し事務所を構えたが、最近は仕事の依頼はほとんどない。
 そんな時に、静岡の父が倒れたという連絡。
 実家に駆けつけてみたら、トマト農家だと思っていたら、父親はイチゴ栽培を始めていた。

f:id:naozi:20200325160927j:plain 母親一人になってしまったイチゴ栽培。
 その苺を放っておけず、母親の苦労を見かねて手伝いするために静岡に滞在。
 東京生まれの妻は農業大反対で、一人息子と東京に住んで別居状態。
 それでも、苺栽培にのめり込んで、苺栽培の奥の深さと格闘する日々が始まる。
 「妻」と「苺栽培」との板挟みと、湧き上がる苺栽培の面白さとの葛藤の中で、現状の農業では先がないとアイデアが浮かぶ。
 デザイナーとしての仕事を地元で受けながら、栽培法の変更や観光農園化、パッケージのデザイン、インターネット活用など、新しい考え方で苺栽培に奮闘する。
 地元の同級生や、それぞれの思惑を持っている姉や義兄達とも協力し合って、富士山を背景にした苺ハウスで、何とか苺狩り農園に辿り着くまでの物語だった。
 農業後継者問題など、現在の農業が抱えている問題や、作物を作る難しさや面白さ。そんなことがよく描かれた内容で、最後は、妻とも心が通いあって、別居も解消する兆しで物語は終わり、読者をホッとさせる。

f:id:naozi:20200325161534j:plain 苺栽培について取材し、よく勉強し、いろいろな苺を食べて味を確かめながらの執筆だったことが随所に感じる作品だ。
 巻末に、こんな「おいしい苺の見つけ方」も載っている。
 ①大きなもpのを選ぶ
 ②カタチは気にしない。
 ③ヘタを見る。
 ④ヘタの下を見る
 ⑤いちばん甘いのは先っぽ
 ⑥少し冷やして食べる
 ⑦旬の旬は一月
 などと、イラスト付きで説明している。

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