朝井まかて著『 落陽 』を読む

 この物語は、明治維新から45年が経った明治天皇崩御直後、明治天皇の望郷の念から、墓陵が京都の伏見桃山に造られると決まった時、「御霊を祀る神宮を帝都に創建すべし」という動きが起こる。
 そして大正九年から、その神宮の杜造営が「献木10万本。勤労奉仕のべ11万人。完成は150年後。」という壮大な事業として展開されるのだ。
 その当時の様子が、三流新聞社に勤める記者たちの目を通して展開する物語だ。

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 東京に帝の霊を祀るという巨大なうねり。それに懸命に取り組む人たち。全国各地からの献木と勤労奉仕
 格式高い神宮の杜は杉や檜などの針葉樹でなければならないが、東京は常緑広葉樹林帯に属するため、針葉樹が育ちにくい。しかし、造営が決まったからには「明治を生きた人間として」「かくなる上は、己が為すべきことを全うするだけ」と、この壮大な事業に打ち込む林学者たち。


 その国民の心の源は何かを、著者の浅井まかては考察しながら、数え17歳で生まれ育った京都を離れて東京へと移り、国民の精神的支柱となり、そうあり続けなければならなかった明治天皇の姿を描いている。
 それは、「象徴天皇」として、そのあり方を探り続け、多くの国民に惜しまれながら先日退位した平成天皇の姿にも引き継がれている心でもあると思った。