僕の2017年読書「ベスト10」・その3

 僕が4月に読んで感動したのが、松岡圭祐著 『 黄砂の籠城 』(上)(下)だ。
 この物語は、1900年(明治33年)の中国・清朝末期に起こった「義和団事件」という史実をもとに書かれた作品だ。
          
 北京の東交民巷(とうこうみんこう)という北京在外公館区域(南北822m、東西936m)に住む日本、ドイツ、アメリカ、フランス、イギリス、イタリア、ロシア、スペイン、ベルギー、オーストリアハンガリー、オランダの公使やその家族と、逃げ込んできた中国人キリスト教徒など合わせて925名が、「扶清滅洋(清朝を助けて西洋外国勢力を撃滅する)」などを旗印に外国人排斥を叫ぶ武装集団・義和団と、それを支持した当時の清国で実権を握っていた西太后の清国正規軍隊に包囲され、援軍到着までの2ヶ月に及ぶ籠城戦の末に、多くの犠牲者は出たものの守り抜いた物語だ。

 この籠城戦で、足並み揃わぬ列強11ヵ国を実質的に先導したのは、実在の人物で会津藩出身の陸軍中佐の柴五郎。
 物語の主人公は、柴の手足となって活躍する櫻井伍長。彼を通して柴五郎の人間性が描かれている。
 柴五郎のもと、日本人の叡智と勇気と、希望を捨てない強靱な精神力、見返りを求めない献身的とも言える壮絶な闘いが繰り広げられる。
 それが他国兵士にも徐々に認められ、信頼され、籠城戦を共に戦い抜く内容で、ハラハラドキドキの場面が最後まで続く。
 こんな日本人がいたのか、日本人が列強国と共に戦う中でこんな活躍をしたのか、と驚くほどの内容なのだ。

 柴五郎を調べてみると、この「義和団事件」で見せた日本人の優秀さと信頼感は、イギリス公使のマクドナルドによって本国へ伝えられ、賞賛の的となった。
 柴中佐はその後、欧米各国で数々の勲章を受賞し、明治天皇からも金鵄勲章や勲一等瑞宝章を受賞している。
 また、彼の存在が、日英同盟が締結されるのに大きく貢献したとも言われている。
 柴五郎が、明治維新で朝敵となった会津藩出身だということにも、僕は興味を持って読んだ。
 史実をもとにした小説に興味のある方には、一読をお奨めできる物語であることは確かだ。