加藤陽子教授の『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』を読む

 著者の加藤陽子さんは、歴史学者(近代史)の東大教授である。
 いま、話題になっている「日本科学者会議」の菅首相任命拒否問題の中の1名でもある。
 そんなことで、以前に、加藤教授の『 それでも、日本人は「戦争」を選んだ 』を読んだことを思い出し、本棚を探して再読したくなって読んだ。
 この本は、東京の桜蔭学園の高校生・中学生の歴史部クループを中心とした17名に対して5回の講義内容だ。生徒達に問い掛けをしながら「戦争」を軸として歩んだ近代日本の歴史を考察するものだ。

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  構成は、
   序章 日本近現代史を考える
   1章 日清戦争―「侵略・被侵略」では見えてこないもの
   2章 日露戦争―朝鮮か満州か、それが問題
   3章 第一次世界大戦―日本が抱いた主観的な挫折
   4章 満州事変と日中戦争―日本切腹、中国介錯
   5章 太平洋戦争―戦死者の死に場所を教えられなかった国
     
 このような内容なのだが、「あとがき」で加藤教授は、「私たちは、現在の社会状況に対して判断を下すとき、あるいは未来を予測するとき、無意識に過去の事例を思い出し、それとの対比を行っています。その際、そこで想起され対比される歴史的な事例をどれだけ豊かに頭のなかに蓄積できているか、これが決定的に重要です。」と書き、「日本という国が歩んできた過去の歴史、国と国とがぶつかり合った戦争の歴史」を、若い世代に広く知ってもらう大切さを述べている。
 実に深く「戦争」を軸として歩んだ明治・大正・昭和の近代日本の歴史を、世界情勢と政治的・軍部的指導者の当時の考え・心情などを日記などからも考察し、どう判断して歴史が流れたかを論考した内容である。

f:id:naozi:20201024170704j:plain 僕は特に、4章と5章の内容に引き込まれた。
 少しだけ、紹介すると、
 日本における満州の位置づけ、そこで起こした満州事変。その後の日中戦争の実態。
 当事者の日記などをもとにした考察内容は、この本を読んで初めて認識できた事が多い。
 また、松岡洋右国際連盟脱退時の心境など、改めて知ることができた。
 さらに、日本が大国アメリカ相手に真珠湾奇襲攻撃をかけ、今から考えると無謀な太平洋戦争を始めざるを得なかった判断の背景にある、日中戦争を取り巻く欧米諸国の思惑と、その情勢など、詳しく書かれている。
 そして、それらを決定する時の御前会議で、天皇説得のために陸軍が持ち出したのが、大阪冬の陣と夏の陣だったり、奇襲攻撃には桶狭間の戦いを引き合いに出したりしているのが驚きだ。
 その他にも、蒋介石の国民政府の駐米大使だった社会思想の専門家・胡適(こてき)の、日中戦争を絶大な犠牲を覚悟しても長引かせれば、必ず、英米は軍艦を派遣せざるを得なくなり、太平洋の海戦が起こると予測していたなど、興味深い内容を紹介している。
 とにかく、近代日本史に興味があり、そこで起こった「戦争」について考えたいと、ちょっとでも思う方には、一読をお勧めしたい著書である。