◇今週の初め、新聞広告に『府中三億円事件を計画・実行したのは私です。』という本が大きく載っていて、それを見て、我が家のロビーでも話題になった。
「三億円事件」は、東京都府中市で1968(昭和43)年12月10日に発生した窃盗事件だ。
「本当に、犯人自身が書いたのだろうか?」
「いくら時効になっているとは言っても、犯人である本人自らが書くなんて、あり得るだろうか?」
そんなことを思いながらも、ついつい買って読んでしまった。
◇この「三億円事件」は、僕がサラリーマン時代に勤めていた会社に、12月のボーナスとして運んでいた途中で奪われたものだった。
事件があったのは府中市の事業所へ運ばれるはずのボーナスで、僕は川崎市の事業所だったので、直接被害はなく、当日にボーナスが支給された。(府中事業所のボーナス支給は翌日になったと記憶)
そのボーナスが支給された夜、先輩や同僚と飲みに行って、夕方に事件を知って驚いたことも含めて、話題はもっぱら、想像も出来ない高額の三億円で盛りあがったのを思い出した。
「本当に、犯人自身が書いたのだろうか?」とまゆつば的疑問を感じながらも、読んでしまったのには、そんな記憶が蘇ったからだ。
◇この本は、ネットの小説投稿サイトに掲載され話題になって、今回、ポプラ社が書籍にしたものだ。
この本に書かれていることが、同時代に、同年齢で過ごした僕にとっては、社会情勢といい、その中で生きた心情といい、かなりリアリティがあって、一気に読んでしまった。
読んでみては、自分探し─自分の存在のようなものを求めて─の、こんな動機が、事件の背景にあるというのも、納得出来ないことではない。
ついつい、有限を感じている人生の時間ある今、告白してみようと思った筆者の心情にも、理解できないことではない。
◇この筆者が、真犯人かどうかは定かでないが、世の中の矛盾を感じつつ、それに対峙するだけの自分を肯定することも出来ない葛藤の日々、そんな中での、友情と恋愛を描いた青春小説としては、なかなか読み応えがあったと言える。
◇余談になるが、今、某タクシー会社が「三億円事件ツアー」というのを企画していて、それが人気だという新聞記事もあった。
日本犯罪史上最大のミステリー事件として、「三億円事件」の実際の犯行現場となった府中市周辺を中心に、犯人の足取りルートをタクシーで、ドライバーが解説をしながら案内するのだという。