葉室麟著『オランダ宿の娘』を読む

 この文庫本の帯に
 「あなたの知らない シーボルト事件の 真相がここにある。」
 というのが目に止まって、葉室麟さんが「シーボルト事件」の史実を題材にして書いた小説というので、葉室さんなら、この事件をどんなフィクションで描くのだろうかと興味を持って読んでみた。
      

 「シーボルト事件」とは、このような事件である。
──オランダ商館付医官 P.シーボルトが文政11(1828) 年帰国に際し、当時、国禁であった日本地図(幕府天文方・高橋景保伊能忠敬のつくった日本および蝦夷の地図を写して贈った) などの国外持出しをはかり、シーボルト以下、多くの幕吏や鳴滝塾門下生が処罰された事件。文政11年8月9日の暴風で稲佐のなぎさに座礁した『コルネリス・ハルトマン』号の修理のために降ろした積荷から発覚し、11月10日商館長メイランを通じて地図そのほか26点の品を押収、たびたび尋問の末、シーボルトは翌 12年9月25日長崎奉行より国禁 (国外追放) を受け12月5日、日本を去った。また高橋景保は同 11年 10月10日に検挙され、翌12年2月16日に獄死したが、死骸を塩漬にされ、同13年3月26日死刑の判決を受け、その家族、部下、通詞、医師四十数名が遠島以下諸種の処分を受けた。幕府は、これを機会として、より一層洋学者の行動をきびしく監視するようになった。(ブリタニカ国際大百科事典小項目事典より) ──

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 江戸時代に、長崎の出島から参府するオランダ使節の定宿「オランダ宿」(長崎屋)の姉妹が主人公の物語だ。
 「オランダ宿」の人達のオランダ人との心の交流、姉妹2人に芽生える恋心、当時の幕府とオランダまた中国(唐人)の貿易の様子、そして、「シーボルト事件」に巻き込まれる人達を、江戸の庶民の暮らしや、江戸の火事騒ぎを入れながら、「実は事件の真相は?」と、葉室さんのフィクションを展開し、事件の背景と真相を解いている。