鷲田清一さんと山極寿一さんの対談本

 哲学者で京都市立芸大学長の鷲田清一さんと、ゴリラ研究の世界的権威の京都大学総長の山極寿一さんによる対談本『都市と野生の思考』を、今、読んでいる。
     
 実に、刺激的な会話が、次から次と出てくる。
 読み流すのはもったいないので、メモのつもりで、僕が心に留まった一部を、ちょっと抜粋転載して紹介する。


その「第1章 大学はジャングル」から、


◇「ゴリラから学ぶリーダーシップ」より(19ページ)
山極:ところで僕はリーダーシップをゴリラの社会から学びました。彼らのリーダーには、二つの魅力が求められます。他者を惹きつける魅力と、他者を容認する魅力です。ゴリラのリーダーは、仲間から担ぎ上げられてなるものであり、他者を力ずくで押さえつけるニホンザルのリーダーとは対局の存在です。


◇「負けない論理」より(25ページ〜6ページ)
鷲田:山極さんからゴリラの話を聞いて、いいなあと思うのが、勝者敗者がいないということです。
山極:彼らには「負ける」という意識がないのです。一方、ニホンザルは勝敗を決めて、弱いほうが引き下がる。勝ったほうがすべてを独占する。これは勝つ論理です。でも、ゴリラは勝敗を決めない。つまり勝ちをつくらない。みんなでこぞって負けそうなやつを助ける。これは負けない論理なんですね。
鷲田:負けない論理と勝つ論理はまったく違うということですね。勝つ論理とは、相手を屈服させて、押しのけて、自分から遠ざけることによって権威の空間をつくる。そうすると人は必然的に離れていく。
山極:勝つ論理は、もう必要ないと思います。求められているのは負けない論理であり、そのゴールは相手と同じ目線に立つことです。だから、決して相手を遠ざけたりしない。


◇「負けない論理」より(27ページ)
鷲田:コミュニケーション教育の重要性が大学でも言われていますけれど、コミュニケーション能力=ディベートで勝つことと勘違いされているフシがある。コミュニケーション教育で教えるべきことはディベートではなく、ダイアログです。平田オリザさんが、ディベートとダイアログの違いを教えてくれたのですが、ディベートでは、議論の最初と最後で自分が変わっていたら負けです。議論に勝つことだけが目的だから、自分の考えを一切変えてはいけない。これに対してダイアログは、話の最初と最後で自分が変わっていなかったら意味がない。またダイアログでは、話せば話すほど自分と相手との差異が細やかに見えてくる。このようにお互いの差異がより微細にわかるようになるのが、ダイアログだと思います。