加藤陽子著『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』

 三重県ヤマギシの村のNさんから紹介されて読み始めた加藤陽子さんの『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』
           
 実に、読み応えのある書籍だった。
 著者の加藤陽子さんは、歴史学者の東大教授である。
 この本は、某私学高校の歴史研究部の生徒に行った、歴史講義の内容をもとにして書き起こしたものだと言うが、その内容は、実に深く「戦争」を軸として歩んだ近代日本の歴史を考察するものだった。
 そんなことで、じっくりと時間を費やして、やっと読み終わった著書である。
 構成は、
   序章 日本近現代史を考える
   1章 日清戦争―「侵略・被侵略」では見えてこないもの
   2章 日露戦争―朝鮮か満州か、それが問題
   3章 第一次世界大戦―日本が抱いた主観的な挫折
   4章 満州事変と日中戦争―日本切腹、中国介錯
   5章 太平洋戦争―戦死者の死に場所を教えられなかった国
     
 このような内容なのだが、
 僕は特に、4章と5章の内容に引き込まれた。
 少しだけ、紹介すると、
 日本における満州の位置づけ、そこで起こした満州事変。その後の日中戦争の実態。
 当事者の日記などをもとにした考察内容は、この本を読んで初めて認識できた事が多い。
 また、松岡洋右国際連盟脱退時の心境など、改めて知ることができた。
 さらに、日本が大国アメリカ相手に真珠湾奇襲攻撃をかけ、今から考えると無謀な太平洋戦争を始めざるを得なかった判断の背景にある、日中戦争を取り巻く欧米諸国の思惑と、その情勢など、詳しく書かれている。
 そして、それらを決定する時の御前会議で、天皇説得のために陸軍が持ち出したのが、大阪冬の陣と夏の陣だったり、奇襲攻撃には桶狭間の戦いを引き合いに出したりしているのが驚きだ。
 その他にも、蒋介石の国民政府の駐米大使だった社会思想の専門家・胡適(こてき)の、日中戦争を絶大な犠牲を覚悟しても長引かせれば、必ず、英米は軍艦を派遣せざるを得なくなり、太平洋の海戦が起こると予測していたなど、興味深い内容を紹介している。
 とにかく、近代日本史に興味があり、そこで起こった「戦争」について考えたいと、ちょっとでも思う方には、一読をお勧めしたい著書である。