野村進著『解放老人』を読む

 日頃、地域の認知症支援施設に関係している妻に、昨夜、「書店に行ったら認知症の事を書いた新刊が平積みされていたよ。」と、この本の話をしたら、「ぜひ、買って来て欲しい」と頼まれる。
          
 サブタイトルに『認知症の豊かな体験世界』とある。
 妻に頼まれて買った新刊だが、渡す前にどんな内容なのかと思って、帰宅の電車やバスの中でページをめくり、続きを帰宅してからサッと一気に読んだ。
 そんな読み方なので、詳しく内容を書くことは出来ないが、著者が実際に山形県の「佐藤病院」という精神科病院の重度認知症治療病棟の患者たちに長期密着取材し、そこで体験したルポだ。

 その取材の中で、じっくりとお年寄りに付き合って、著者は「認知症は、新たな可能性を秘めた〝救い〟という視点から見直せるかもしれない」と気付き、この難病を新しい角度から見つめることを提言している。
 認知症を脳の病としてだけで見るこれまでの視点は、認知症が秘める豊かな可能性を切り捨ててしまう結果になってはいないかと著者は述べているのだ。
 戦争体験などの〝記憶地獄〟から解き放し、末期癌患者の痛みを遠ざけ、死期の間近の人に恐怖や苦痛をほとんど感じさせない認知症の発病を、従来の死にしか救いはないと絶望してきた「認知症観」でなく、死に至るまでのゆるやかな過程に伏流水のごとく流れつづけている救いの一局面とはとらえられないかと、「認知症が内包する救済の可能性」に視点を向けているのだ。
 そして5年にわたり取材で出会った認知症を患った人達を「かくも強烈な個性の持ち主たち」と、温かい眼差しで書いている。
 今、大きな社会問題となっている認知症を考える上で、とても大切な新たな視点を示唆している内容に僕は感じた。