百田尚樹の小説『海賊とよばれた男』(上)(下)を、やっと読み終わった。
〝やっと〟と表現したが、かなり重症的にのめり込んで読んだ。
いつものように、(上)は通勤電車の中で読んでいたのだが、(下)は2日間ほど、帰宅して食後の時間をテレビも見ずに、深夜までの時間を費やしてしまった。
この『海賊とよばれた男』は、出光興産の創業者・出光佐三をモデルにした小説なのだが、2013年度の「本屋大賞・第一位」のベストセラーで、(上)(下)累計で170万部も売れている理由が、読み終わって納得する。
放送作家の百田尚樹の小説だけあって、何と言っても読みやすい。
次から次と、山場を設定した展開が読者に先を急がせる。
仕事や会社の事業が順調にいきそうになると、決まって障害が現れ、邪魔をする人や組織が出てくる。
それに挫けることなく立ち向かっていると、必ず、その難題から助けてくれる人が登場する。
こんなにも波瀾万丈な人生の波を乗り越えてきたんだと、ちょっと眉唾にも感じてしまうくらい、それが最後まで繰り返される。
そして、いつの間にか、出光興産の創業者・出光佐三の人物に魅せられてしまう。
内容については、すでに読んだ人も多いと思うし、これから読む人のことも考えて書くことはやめるが、2つだけ記しておきたい。
◇時間を見付けて「出光美術館」に行ってみたい
出光佐三が、長年に亘り収集した美術品が展示してある「出光美術館」は、丸の内の帝国劇場と出光興産本社が入居する帝劇ビルの9階にある。
小説の最後に、主人公が愛した江戸時代の禅僧・仙突義梵(せんがいぎぼん)の書画のことが書かれている。
それが「出光美術館」に展示してあるらしい。ぜひ、見たいと思った。(この写真はネットから借用)
『双鶴画賛』(そうがくがさん):「鶴ハ千年 亀ハ万年 我ハ天年」
『指月布袋画賛』(しげつほていがさん):「を月様幾ツ十三七ツ」
◇こんな人物がいたのかと感心
小説の中に、主人公の鐵造を支援した日田重太郎という実在の人物が登場する。
日田重太郎は、淡路島の資産家の養子で、神戸高商時代の出光に息子の家庭教師を頼んだことが縁で知り合い、佐三の将来に全財産を投げ打つ人物だ。
佐三の実家は家業が傾き、苦しい生活を続けていて、小麦粉と石油を扱う小さな商店の丁稚から、なんとか独立を決意したものの、資金の当てが無かった佐三に、当時のお金で6千円(現在の8千万〜9千万円)を、「貸すのではなく、もらってくれ」と申し出る。
それには3つの条件を付ける。
第一に、従業員を家族と思い、仲良く仕事をしてほしい。
第二に、自分の主義主張を最後まで貫いてほしい。
第三に、自分がカネを出したことを人に言うな。
苦難な場面、場面で「なにものうなったら、二人して乞食になったらいいんや」と励まし、そして親戚の猛反対を押し切って援助する。
こんな人物が、本当にいたことに驚く。そして日田重太郎という人物を調べたくなった。
ついでに書くと、毎週日曜日のテレビ朝日「題名のない音楽会」は出光興産の一社提供なのだという。
番組中のコマーシャルは一切はさまない。
これは、出光佐三が「芸術には中断はない」という考えを貫いているらしい。