ブックオフで見つけた文庫『利休にたずねよ』

 この小説は、作家・山本兼一が3年ほど前に直木賞を受賞したものだが、僕はその頃、北方謙三の『三国志』や『水滸伝』などにはまっていて、読む機会を逃していた小説だ。
 その後、文庫化されて、いつかは読んでみようと思っていたのだが、ブックオフで偶然目に留まって手に取ったのは一ヵ月ほど前だ。
 そして、読んでいる途中で村上春樹の話題の新作が出て、山本兼一著『利休にたずねよの方はしおりを挟んだまま、カバンに入れておいた。
 それを、村上新作を読み終えてちょっと経ってから再読開始し、やっと今朝の通勤電車の中で読み終わった。
          

 この物語は、利休の一生を、切腹の日から遡り19歳の時点まで描くという手法の物語。
 切腹の日からどんどん時間を遡って、利休を取り巻く人物を登場させて、利休が如何にして利休となったか、利休の美に対する執念の謎解きなのだ。
 侘び寂びの中に美を求める茶道。
 その美の原点が、実は利休19歳の時に出合った異国(高麗)の女性だったという、今までの侘び茶の完成者として知られる茶聖・千利休のイメージを覆す、人間・千利休を描いている。
          

 19歳の時に異国の美女と一緒に死のうとして毒を入れた茶を点て、女は飲み、自分は飲めなかった千与四郎が、秀吉から切腹を賜ったのを機に、長年心に秘め続けたその異国の女のもとに旅立つ千利休、享年70歳。
 何とも、俗的要素たっぷりの人間らしい千利休ではないか、というのが読後感だった。