◇先月末、暫くぶりに訪ねてきた友人と、高田馬場駅前のキリンシティでビールを飲んで歓談しているときに、話題が最近の本のことになった。
その話の中で彼は「原発再稼働に対して、現役キャリア官僚が書いた本が話題になっている」と教えてくれた。
その時、本のタイトルを聞いて「そう、ホワイトアウトというと、山岳小説みたいだね?」という僕に、彼は「まあ、読んでみたら・・。面白いし、原発について考えさせられるよ。」と言っていた。
それを聞いた数日後、書店を覗くと[[、『原発ホワイトアウト』(講談社)]]というタイトルの新刊が平積みされていた。
「これが現役キャリア官僚の書いた本か」と思って著者略歴を見ると、
若杉 冽(わかすぎ・れつ)東京大学法学部卒。国家公務員Ⅰ種試験合格。現在、霞ヶ関の省庁に勤務。
これしか書かれていない。
先ほどネットでアマゾンの商品紹介を見ると、
「キャリア官僚による、リアル告発ノベル。(略)この事実を知らせようと動き始めた著者に迫り来る、尾行、嫌がらせ、脅迫……包囲網をかいくぐって国民に原発の危険性を知らせるには、ノンフィクション・ノベルを書くしかなかった。」とある。
因みに、ノンフィクション・ノベルの定義を〝Yahoo!百科事典〟で調べてみると「歴史上の事実やできごと、作者の個人的経験、ある人物の生涯などを作品の正面に据え、作家の想像力でそれらに肉づけし、より臨場感をもたせて描き出す。」とある。
◇読み始めたら、そのストーリー展開のリアルさに引き込まれた。
登場する人物は、名前こそ違うが背景や状況などから、実在人物に結びついてしまう。
それも、つい最近の参議院選挙後の社会状況がベースになっている。
例えば、脱原発俳優の参議院議員山下次郎(山本太郎?)氏が登場するし、他にも新崎県知事の伊豆田清彦(新潟県知事の泉田裕彦?)氏、衆議院議員の山野一郎(河野太郎?)氏というような感じで、読んでいて顔が浮かんでしまう。
原発に関わる様々な立場の登場人物が、その業界の裏事情の中で暗躍する小説なのだ。
この小説が、どこまで真実かどうかは別として、日頃のニュースでは知ることがないリアル性を含んだ内容である。
そして結末は、
再稼働された新崎原発(柏崎刈羽原発?)への送電塔が、大晦日の猛吹雪の中、大陸系テロによって破壊され、電源喪失事故になるという内容だ。
そこで初めて、冒頭に記されている「歴史は繰り返す、一度目は悲劇として、二度目は喜劇として(カール・マルクス)」という言葉が浮かび上がってくる。
◇この本を読んでいる途中の先週、僕は偶然にもNHKスペシャルを観た。
『原発テロ 〜日本が直面する新たなリスク〜』という番組である。
その内容は、
福島第一原発事故で、世界は、原発の安全性の問題と、もう一つの重大な警告を受けた。 それは「核兵器がなくても、原発の電源や燃料プールを破壊すれば、核テロを起こせる」ことが明らかになってしまったのだと言う。
各国の、それに対する対策の最前線をルポした番組だった。
そんなことで、小説の中で展開する無防備な送電塔の破壊による電源喪失が、さらにリアルに感じてしまった。
◇小泉元首相が「脱原発」発言をして、政府関係者に波紋が広がっているが、この小説と、NHKスペシャルを観て、僕は、またまた、原発問題について、いろいろと考えさせられてしまった。