池井戸潤著『七つの会議』を読む

 日曜日に三重出張があったので、電車の中で何か読む本をと思って、先週末に書店に入ったら、一番目立つところに平積みされていたのが、この池井戸潤の「七つの会議」という新刊だった。
 池井戸潤の新刊というだけで、直木賞を受賞した『下町ロケット』や『空飛ぶタイヤ』さらには『ルーズヴェルト・ゲーム』などを思い出して、半ば衝動買いだった。
 今度はどんな内容なのかとワクワクして、電車の中でページをめくる。
            
 この物語は、日経電子版で連載したものを刊行したとのこと。
 一流企業傘下の中堅メーカーが舞台で、第1話から第8話まで、短編小説風に中心人物が入れ替わりながら展開する。
 結局は、企業の中での利益優先や権力争いの波に翻弄されながらも、それぞれの主人公が「何のために働くのか」と、自らに問う物語になっている。
 いままでの『下町ロケット』や『ルーズヴェルト・ゲーム』などのように、主人公が信念を持って逆境に立ち向かう、読んでいて「正義が勝て!」とワクワクする物語ではない。
 むなしく、翻弄されたあげく、第一線から消えていく者も描かれている。
            
 会社の中での権力争い、ノルマ達成の重圧、リコール級の製品事故の証拠隠滅、その真相究明などなど、企業犯罪の生まれる経過と、そこに関わる人たちの心情をリアルに書いている。
 前作のように、読後に「元気をもらった」とは、ならなかったが読み応えはあった。
 それは、物語の中に登場する人物が、単なるワルではなく、それぞれの育ちの環境や、親から影響されて形成された価値観を持ち、それぞれ個性を持った人物であり、家庭と会社の狭間で苦しむ人物として池井戸潤がリアルに描いているからだと思う。

◇今日の夕刊記事
 蛇足ではあるが、今日の夕刊1面トップに、
 大手スーパーが、店頭で医薬品を売るために必要な「登録販売者」の資格を取るために、受験者が必要な実務経験を偽って証明書を発行して、不正受験させたという記事が載っていた。
            
 池井戸潤の『七つの会議』を読んだ後に、このような記事に触れると、企業内ではそれほど悪いとも思ってない、ちょっとした不正が表沙汰になって、慌てる幹部たちの顔が浮かんでしまうし、それがどのような組織土壌から生まれるのか、何となく分かる気がする。