坂木司著『和菓子のアン』

 通勤電車の中で読んでいた坂木司著『和菓子のアン』を読み終える。
            

◇僕は、坂木司の小説を始めて読んだ。
 坂木司は、1969年生まれというから43歳だろうと思うが、文章といい、文体といい、軽やかに今風若者タッチで書いている。
 最近、20代や30代の人に原稿をお願いすると、500字程度の原稿は携帯で打ってメールで送られてくる。
 時々、絵文字も入っていて編集に困るのだが、話し言葉をそのまま文章になっていて、その軽やかさが面白い。
 今回読んだ坂木司の『和菓子のアン』も、そんなタッチで、明るく、軽い感じで一気に読める。
               
坂木司をまるで知らなかったので、ネットで調べてみたら、
 ──2002年に『青空の卵』で覆面作家としてデビューする。 ペンネームの由来はデビュー作の登場人物からで、その時それより良い名前が思いつかなかったからとか。 なお出生年以外は性別も未公表(性別などのプロフィールを公開することによって読者に先入観を与えないため)。
 とあった。
                
◇この『和菓子のアン』は、和菓子にまつわるエピソードを取り入れた謎解き小説なのだが、主人公のプロフィールを文中から引用すると、
 ── 私、梅本杏子。十八歳。身長百五十センチ。体重五十七キログラム。小学校の頃のあだ名は「コロちゃん」。才能も彼氏も身長もないくせに、贅肉だけは売るほどある。……買う?
 ──これといって得意なこともなく、学歴もない。資格もなければ、美貌もない。あるのは食欲と体重と健康だけ。私の将来はかなりヤバめな気がする。
 このような、どこにでもいる、ちょっと太めで、大福もちのようなほっぺの、誰からも愛されるタイプの普通の女の子なのだ。
 彼女が、アルバイト先の百貨店地下の和菓子店を舞台に、和菓子の奥深さや、和菓子に付いている名前から、日本語の粋な言葉遊びなどに興味を深めていく展開が面白いし、読んでいる僕も「そうなんだ」と、和菓子の世界をちょっと覗いた満足が残っている。
 さらに、登場人物それぞれの人生で抱えていることの謎解きが、和菓子を通して展開していくあたりが、この小説の魅力だ。
               

◇最後に、この『和菓子のアン』で知った販売の隠語を2つ紹介する。
 その1:売れ残った商品で、昨日のものは「兄」で、一昨日のものは「大兄」というのだそうだ。もちろん、高級生和菓子は兄や大兄を販売することはない。
 その2:トイレのことを「遠方」といって、「急に遠方に行きたくなっちゃった。」と店員が言ったら「トイレに行きたくなった。」ということらしい。