恩田陸著『 蜜蜂と遠雷 』を読む

 恩田陸という作家が『 蜜蜂と遠雷 』で、本屋大賞直木賞をダブル受賞し話題になっていたので、ぜひ読んでみたいと思ってはいたが、僕の小遣い書籍購入枠もあって、購入を迷っていたら、友人のナカガキさんが「村上春樹の本と恩田陸の本を両方買ったので、『 蜜蜂と遠雷 』先に読む?」と貸してくれた。
 もうひとつ迷っていたのは、この本の舞台がピアノコンクールというのもあって、音楽の世界に疎い僕は、ちょっと退いていたのも確かだ。
 僕は、恩田陸の作品は、かなり以前に『 光の帝国 』だけ読んだ記憶があり、不思議な世界を書く作家だなあ〜程度の認識だったが、この『 蜜蜂と遠雷 』を読み終わって、今は「恩田陸という作家に脱帽」って感じだ。
        
 読み始めたら、音楽、特にクラシックの世界に疎い僕でも、十分すぎるほどワクワクしながら物語に引き込まれたし、500頁の長編を一気にとは言わないが、夢中になって読んで、幸福感と爽やかな感動を、それはそれは十分にいただいた。
 物語の内容は、色々なところに書かれているので省略するが、ちょっとだけ書くと、
 養蜂家の父のもとで移動生活をしながら、自分のピアノを持たない少年・風間塵16歳。
 天才少女でありながら、母の死を契機に長らくピアノを弾く目的が見つけられなかった栄伝亜夜20歳。
 その栄伝亜夜と幼なじみで、このコンクールで偶然再会し、正統派の演奏技術で優勝候補と目されるマサル19歳。
 社会人として妻子もいてコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。
 それら世界から集まった天才ピアニスト達が、芳ヶ江国際ピアノコンクールを舞台に、第1次から2次、3次の予選、そして優勝を目指して本選のステージで、互いに刺激し合い、切磋琢磨して、より深い音の世界の演奏を繰り広げる物語だ。
 何度も書くようだが、音楽の世界、クラッシックの世界に疎い僕でも、夢中になってしまうくらい、文章で音楽の世界をここまで美しく表現して、実際に演奏している空間にいて聴いているような感覚と臨場感を、文字表現で成り立たせてしまう恩田陸という作家の表現力に、読み終わって暫く、僕はこの感想を書けなかったくらい感動してしまった。
           
 「光が降り注いでいた。」
 「かすかに甘い香りがした。」
 「風が吹いていた。」
 「明るく力強い音色が、世界を震わせていた。」
 「明るい野山を群れ飛ぶ無数の蜂蜜は、世界を祝福する音符であると。」
 「世界とは、いつもなんという至上の音楽に満たされていたことだろう、と。」
                           (本著文中から抜粋)