『賢治から、あなたへ ─世界のすべてはつながっている─』

 僕は今、この本の存在を僕に教えてくれた知人に感謝している。
 知人とは、早稲田奉仕園で開催していたある語学講座に、お互い短期間ではあったが通った時に知り合った某大学の院生で、彼は自分が読んだ本の感想を書き留めているブログを持っている。
 先月、そのブログ記載の中に「大学の図書館で見つけ読みました」とあった一冊が、
 このロジャー・パルバース著 『 賢治から、あなたへ 世界のすべてはつながっている 』 だった。
             

 宮沢賢治については、僕は事務室の壁に『雨ニモマケズ』の詩を貼っているし、彼の書いた物語も何篇か読んでいるし、東日本大震災以降、再び注目されているので、気になる存在である。
 しかし、賢治文学の作品群は、登場人物の名前にしろ、形容のために使われる言葉など、なぜかカタカナ名や、難解な科学専門名や用語が多く使われたりしていて、イマイチ僕の理解を妨げるものも多いのは確かだった。
 そんな僕にとって、この著書は、見事にそれを解決してくれるに相応しいものだった。
 著者は米国生まれで、長年日本に住み、東工大世界文明センター長を務めたり、映画「戦場のメリークリスマス」の助監督などもしたり、賢治作品などの英訳も数多く手掛けている人物だ。
             

 今年の春に刊行したこの著書は、著者が「まえがき」冒頭に、
 ─ いまこそ、わたしたちは宮沢賢治を読み直し、新たな視点から賢治の作品と思考を捉えなければなりません。そして、21世紀に宮沢賢治をよみがえらせなければなりません。 ─
 と書いているように、賢治作品の一つ一つの中に、賢治は何を込めて、どんなメッセージを私たちに発していたか、それの解明を試みている。 
 代表作「雨ニモマケズ」のほか、僕の理解を拒んでいた物語や、読んだこともなかったような散文や詩など18編について、賢治の世界観、思考の道筋、そこから生まれるメッセージを解説してくれているのだ。

 僕は先週、通勤電車の中で、前半は途切れ途切れに読んでいて、後半は今日の日曜日に一気に読んだ。
 そのような段階で、まだ消化できない部分も多々あるが、もしも賢治作品に興味があるのなら、これから記す章立てからも分かるように、一読を薦めたい著書であることは確かだと思っている。
    第一章  「わたし」は「あなた」でもある
    第二章  すべては「つながっている」
    第三章  あなたがいまここにいる意味と役割は無限である

 例えば第一章で
 ─ 賢治が生み出した世界、感じていた世界をひと言でまとめるなら、僕は「わたしたちがおたがいにつながっている世界」だと思います。もう少しわかりやすくいうと、生物であれ、無生物であれ、この宇宙に存在するものは、すべておたがいに密接に関係しあっている世界、あるいは、おたがいに密接に関係しあうことでしか何一つとして存在できない世界、ということです。─
 このように賢治の世界観を述べている。
 さらに、賢治は、私たちが見たり感じたりしているものは、すべて自分の脳、つまり五感によって処理されたもの、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚などが、処理したり修正したものであると、人間の事実の認識をそのように捉えていたと解説している。
 なんとそれは、僕らはヤマギシズム研鑽学校で気付いたことではないか。

 さらに、著書の最後に、賢治のメッセージとして「あなたが、いまここに生きているだけで、世界は確実に変わる。」と、その根拠となる作品を紹介しながら解説しているなど、全編にわたって意味深い内容である。

 僕は最後に、第三章に出てくる「虔十公園林」(けんじゅうこうえんりん)の物語に、初めて触れ読んだのだが、それは賢治の代表作「雨ニモマケズ」を読んだ時と同じような質の感動を覚えたことを、ここに記しておきたい。