原田マハ著『風神雷神 Juppiter, Aeolus』(上・下)を読む

 昨年末から読んでいた文庫本・原田マハさんの『風神雷神 Juppiter, Aeolus』(上・下)を読み終わった。
 原田マハさんのアート小説は定評があり、僕もよく読む好きな小説分野だ。
 今回は、俵屋宗達の『風神雷神図屏風を取り上げているので読んでみた。

     

 有名な『風神雷神図屏風』の作者・俵屋宗達の生涯は謎だらけなのだ。


 マハさんはインタビューの中で
 ──「風神雷神」で描かれているのが赤鬼青鬼ではなく、どうして白鬼青鬼なのかと疑問に思っていました。「風神雷神」は日本の美術史のなかでも非常に特殊な傑作でありながら、作者の俵屋宗達の背景はいくら調べても、生没年すらはっきりしていません。それでも宗達の作例がいくつか残っていますから、宗達という素晴らしいアーティストがいたことは間違いない。宗達が制作した当時の姿を留めている作例を読み解くことで、そこに隠された秘密がなにかわかるような気がしました。──

 つまり、マハさんは謎だらけの俵屋宗達だからこそ──思い切った時代小説が書けそうだと思って──と言っているように、実にマハさんの奇想天外なイマジネーションを駆使して、物語を展開させている。
──おそらく宗達は1570年代に生まれ、1640年前後に没していると言われていますが、それはちょうど織田信長豊臣秀吉徳川家康といった戦国時代の歴史上の人物が活躍していた頃と重なります。安土桃山時代は美術史的に日本のルネサンス時代と称されるほど、豊かな文化が花開いた時代で、そこに宗達もいたかと思うと、胸踊るじゃないですか(笑)。──
──そこで当時の時代背景を調べてみると、1582年に天正遣欧使節団が派遣されていたり、思った以上に横の広がりもある時代だったんです。─
 そんな時代背景から、織田信長を登場させ、俵屋宗達織田信長からある密命を受け、天正遣欧使節原マルティノたちとともに使節団の一員として同行させて物語を展開させている。

 読んでいて「こんな展開って、あり?」って思ったが、マハさんは、
──もちろん、99.9%、そんなことはなかったに違いないのですが、歴史のなかには必ず0.1%の可能性が残されていますし、そこがフィクションを作る面白さでもあります。── と言っている。

 

 俵屋宗達の絵師となる過程の奇想天外なフィクション小説として読み応えあるし、天正遣欧使節団の航海の様子や、バチカンをはじめ訪問先々での歓待の様子もリアルに描き、そちらも読み応えある小説となっている。

 ちなみに、俵屋宗達が描いたという「白象図」風神雷神図屏風を、物語の展開に合わせてネットで見ながら読んだことはいうまでもない。