文庫・篠田節子著『インドクリスタル』(上)(下)を読む

 先月末に文庫化された篠田節子さんの『インドクリスタル』(上)(下)を読んだ。
       
 ボリュームたっぷりの物語だった。
 第10回中央公論文芸賞を受賞した作品だけあって、実に読み応えのある物語。
 これだけの物語を織り成すには、膨大な資料の読み込みと、テーマ関係者への長時間の緻密な取材が欠かせないだろうと、篠田節子という作家の創作姿勢に脱帽って感じだ。

 物語は、インドを舞台にした鉱物ビジネスを巡る内容。
 星探査用の高純度人工水晶開発のため、そのマザークリスタルとなる高純度自然水晶原石を求めてインドに行き、悪戦苦闘するビジネスマンの話なのだが、インドという国の矛盾に満ちた社会実態 ─ カースト制や部族対立、汚職、差別、貧富の差、ないに等しい人権意識、複数の言語、複数の宗教、複数の民族など ─ が抱えているインドの闇に翻弄されながらの物語の展開にハラハラしながら読み進めた。
 そして、この物語を読み終わったときに、なぜか清々しいのは、インドで孤軍奮闘、命を懸けての悪戦苦闘する日本のビジネスマンの物語で終わることなく、そこに、日本人としての矜持を持ち、それを貫きながら目的を達成しようとする姿が描かれているからだと思う。
 さらに、「漆黒の肌」の先住民の一人の少女に、記憶力と学習能力の底知れぬ才能を見出し、何とか自立させて、彼女の才能を活かした人生をと、親のような眼差しで愛情を注ぐ主人公の人間味が、読み終わったあとにずっしりと心に残る。