製糸業で財を成した林国蔵の邸宅

 土曜日に、長野道の塩尻北IC近くのヤマギシズム松本供給所に出掛けたついでに、岡谷の製糸業発展の基を築いた製糸家の林国蔵が建てたという「旧林家住宅」を見学した。
 高速を岡谷ICで降りて、通りかかったお年寄りに「公開している林邸」を聞くが「この辺りは林という苗字ばかりだから・・」と返答されて、しかたなくナビを頼りに探し当てる。
     
 岡谷は、耕地が狭く、冬の寒さが厳しく長いために、農業だけでは生計を立てることが困難なために、江戸時代から余業を積極的に取り入れ、明治維新後は近代的機械製糸業を地場産業として発展させたらしい。
 今回見学した「旧林家住宅」は、岡谷の三大製糸家の一人である林国蔵が、その私財を注ぎこんで、明治40年に完成させた木造切妻造り瓦葺2階建の母家と、明治30年代に建てられた土蔵造り瓦葺2階建の離れなどだ。
     
 この「旧林家住宅」は、現在は岡谷市に寄贈されていて市の管理になっているらしく、入館料を払うと市の職員らしい説明員が丁寧に説明してくれた。
 パンフレットに「シルクと金唐革紙の館」とある。
 最初に、その「金唐革紙(きんからかわがみ)」についての説明を受ける。
 西洋建築の壁などの装飾を取り入れたもので、その技法を革でなく厚手の和紙でしたところに日本の匠の特色があるらしい。
 現存するものは金色が黒ずんでいるが、その技法で復元された和紙の「金唐革紙」が展示してあった。
         
 それにしても、この「旧林家住宅」は、実に凄い木造伝統的建築物である。
 丁寧な解説を説明員から聞かなければ、見落としてしまうほど、ヒノキを始めとした銘木が、至る所にふんだんに使われている。
     
 調度品の数々も目を見張るものばかりだ。黒檀造りの螺鈿細工だ。
        
 欄間の透かし彫り物も凄い。
     
     
 この珍しい欄間はクモの巣を顕したもので、ここから先は仏間でみだりに入室を禁じていることを表しているという。
     
 この欄間がある廊下天井には長さ18メートルというヒノキ丸太の梁柱は見事なもので驚かされた。
 和室の一角の襖を開けると、2階の隠れ部屋への入口になっている。
 ここは外国から来たシルクバイヤーなど大切な客を迎えた応接部屋だという。
     
     
 壁一面に様々な模様の金唐革紙が貼られているし、当時としては珍しかったカーテンまである。
     
     
 ここが仏間だ。
 当時、奥様は仏間で生活していたのだそうだ。それで「奥の間の方=奥方」かと納得。
     
 仏壇上段の天女だろうか、その彫り物も凄い。
     
 茶室もあるし、その隣には洋館が併設されている。
 その洋室天井灯具周りや扉上には「金唐革紙」や漆喰細工が施され、床や壁面下部は寄せ木で組まれていた。
     
 もう一つ驚いたのは、諏訪湖天然ガスを採取して使ったという明治期としては珍しいガスストーブがあったことだ。


 重厚で華やかな雰囲気。
 いろいろと解説を受けたが、覚えきれない。
 何はともあれ、岡谷を訪れたら、西洋装飾の芸術と言われる「幻の金唐革紙」と、日本建築の匠の技が込められた「旧林家住宅」は必見である。