先週、モンゴルから来日の子ども達を、成田空港まで迎えに行ったときに、飛行機到着待ちでちょっと時間があったので、空港内の書店で時間調整していたときに目に留まったのが、この文庫だ。
阿部珠理著 『聖なる木の下へ アメリカインディアンの魂を求めて』
筆者は、立教大学教授で比較文明学者で、専門はアメリカ先住民研究である。
実に丁寧に、コロンブスの「新大陸」発見以降に押し寄せたヨーロッパ人たちの、先住民に対する収奪と、保留地への囲い込みと同化政策の歴史を経ても、精神的伝統を今なお暮らしの中に残すアメリカ先住民のスー族をレポートしている。
冒頭の記述によると、1492年にコロンブスがアメリカ大陸を発見した当時には、「北米には500万とも1000万ともいわれる先住民が住んでいた。」とある。
著者はその中の一つ、スー族の住む保留地に入って、祈りの儀式や占術に触れ、神秘的な伝承を貫くものは、大地を敬い、勇気を重んじる「心の文化」だと記述する。
例えば、胸に刺した木串で身を裂くサンダンスという儀式、大いなる霊・ワカンタンカへの信仰、聖なる輪の教えなど、一見、非文明的な野蛮に思える伝統文化の中に、彼らの精神世界を探り、明らかにして、物質文明の発展だけでは得ることのできない「人間の本当の豊かさとは何か」を考えさせられる。
興味ある方には、本書を読んでいただくとして、スー族の「4つの美徳」を抜粋転載させていただくが、
第1は、ワチャントンナカ(寛大)。
精神の寛大と物質に対する寛大は、ほぼ同意義。心の広い人は、決して物惜しみなどしない。ものを与えるにしても、どうでもいいものでなく、自分にとって大切なものをどれだけ気持ちよく手放せるかで、その人の価値が決まる。
第2は、ウーヒティカ(勇気)。
むやみやたらに敵を殺したり、無謀な攻撃を仕掛ける暴挙は、勇気とははっきりと区別される。勇気はあくまでも戦士としての品位と尊厳の現れ。(古来の戦いでは、敵を倒すことは殺すことでなく、敵に触れること)
残りの2つは、ウォワァチンタンカ(敬意)とウォクサペ(智恵)。
生きとし生けるものは皆繋がっているという伝統的な世界観の中で、人間のみならず、動物、植物、山川草木全てが敬意の対象。
その実践の思想を心に刻んでくれるのが智恵。
この様な、伝統的精神世界を、実際の生活に密着して研究レポートした事例は、分かり易く、納得できる内容なのだ。