園子温監督の映画『希望の国』

 2週間ほど前の東京新聞夕刊「シネマガイド」欄に、今週の注目として、20日公開の映画『希望の国』が紹介されていたので知っていたのだが、早速観た知人から「凄い映画だ。NOJI〜SANも福島生まれだよね。福島で何が起こったのか、それが終わることなく続いている現実の映画だよ。考えさせられる、観たらいいよ。」というメールをもらった。
 そんな事もあって、案内所から帰宅する途中に、新宿に寄って、園子温監督の新作『希望の国を観た。
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 この映画『希望の国』は、シナリオも園子温なのだが、
 福島第一原発の事故を題材にした劇映画で、架空の「長島県大原町」という場所にある原子力発電所で、福島第一原発事故に続く新たな震災原発事故が発生したという設定。
 平穏な暮らしがあった田舎、地域社会、家族関係や日常生活が、事故発生から見えない放射能の恐怖にさらされながら崩壊していく様子を、園監督自身が取材した内容に基づいてリアルに描いた映画だ。
 園子温監督は、手元にある「週刊読書人」という新聞のインタビュー記事の中でも語っているのだが、
「このテーマに限っては、想像力をもって、東京の机の上で書いちゃいけないと思いました。」と言っているように、資料や、自分の想像力を働かせないで、福島の被災地で実際に聞いた言葉だけを台詞にしながら、起こった出来事の事実を深く掘り下げてシナリオを描いた映画なのだ。
          

 原発から20Kmの先祖代々の土地で、息子夫婦と酪農(牛飼い)を営んでいる老夫婦。その妻は認知症を患っている。
 息子夫婦の妻は妊娠していることが判明。
 震災前は家業を手伝わずに遊んでばかりいた隣家の息子と、両親が津波で行方不明になった恋人。
 これら3組の男女が、強制避難、周りの偏見、行方不明の両親を探す、そんな困難な状況の中で、互いの愛情を確認していく姿が、この重いテーマの中で輝き心温まる。
 この映画は、「反原発」を声高に訴える映画ではない。
 それについても、園子温監督は「週刊読書人」の中で、
「映画とは、巨大な質問状だと思っているんです。答えを出すものではない。自分はこう思っているんだっていうことを描くんじゃなくて、これについてどう思いますかっていうことを、映画は描けばいいと思っています。『希望の国』という映画も、あの被災した家族の人たちの感情に二時間付き合ってもらって、それでどう思いますかっていうことを問いかけている。」と語っている。
          
 福島県が故郷でありながら、遠く離れて暮らしていると、多忙な日常の時の流れに、あの震災も、あの原発事故も、知らず知らずのうちに少しずつ風化し、記憶の一つになりつつあるこの頃の僕だったが、改めて、台詞や場面の一つ一つが、そんな僕に「どう思いますか?」と、強烈に問うていた映画だった。

 最後に記しておきたいが、老夫婦を演じるのは、夏八木勲大谷直子だ。二人の好演技が切なさとなって心に残る。