久々に読み応えのある本に出会う

 新聞の書評欄を読んでいて、フッと興味が湧き読んでみたのが「ヒトはどうして死ぬのか−死の遺伝子の謎−」(田沼靖一著・幻冬舎新書)である。
  
 この本が読み応えあるのは、「死の科学」を解説しながら、「いま生きていること」や、「いま存在している」ことが、どんなに素晴らしいかを感じられたからである。
 私達の細胞は、役割を終えると自ら死んでいく。この現象を「アポトーシス」と呼ぶらしい。その「アポトーシス」はギリシャ語らしいが、秋に木の葉が落ちる様子になぞらえて付けられたらしい。
 私達の細胞には、役割を終えたり傷ついたりしたら、新しい細胞のために、丸ごと消し去る遺伝子がプログラムされているのだという。まさに「個」を捨て、「全体」を生かそうとするかのように。
 この「全体」を生かそうとして自らを消し去る遺伝子プログラムがあるからこそ、進化し、環境の変化にも対応できるのだと述べる。その「細胞の死」を科学的に合理的に解説している。
 著者はあとがきで、
 このはかなさを越えるには、目に映る自然の美しさと、目には見えないその奥にある自然の大循環−−2度と同じものを繰り返さない永遠性のなかから、新しい生命がつくられていくことの素晴らしさを感じ取るしかないのかもしれません。
 と述べながら、「方丈記」の一文を紹介している。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」
 春になると芽吹き、花が咲き、夏には木の葉が茂り、秋になると紅葉して落ちていく。その大自然の流れ(循環)と私達の身体そのものも一体である世界を、私はヤマギシズム研鑽学校Ⅲで観たのだが、それを科学的に言葉で補足してもらったような読後感であった。