文庫・稲見一良著 『 セント・メリーのリボン 』 新装版

 書店で文庫コーナーに積まれている本を見ていたら、稲見一良著 『 セント・メリーのリボン 』新装版というのが目にとまった。
 帯に「永遠の感動作!」とあるし、「新装版」というのに興味を持って読んでみる。
         
 この文庫には5編の短編が収録されているが、やはり、表題の『セント・メリーのリボン』が、僕は一番感動した。
 この短編集「あとがき」で、著者は「誇り高き男の、含羞をこめた有形、無形の贈りもの」をテーマに書いたと言っている。
 『 セント・メリーのリボン 』 は、失踪した猟犬探しを生業とする探偵の男が主人公。
 そこに、盲導犬の行方を突き止めてほしいという仕事が舞い込む。
 猟犬が専門だとしぶしぶ受けた仕事。
 盗まれた盲導犬を突き止めたら、母親を亡くし、男手ひとつで育てられている目の不自由な少女に辿り着く。
 不憫な娘に思いあぐねて、盲導犬を衝動的に盗み娘に与えたものだった。
 そんな事情に罪を問わず、その盲導犬を引き取り事件は解決するのだが、少女から盲導犬を引き取るときに見た少女の一筋の涙に、主人公は心とらわれ、捜査報酬を超える出費をして、その少女に新たな盲導犬を、雪のクリスマス・イブの日に、銀色のリボンを付けて、花束と一緒に贈るのだ。
 こんな男の姿に胸を打つラストシーンだ。
 自分の信念と生き方にこだわり、「カッコいい」男のロマンを書いた物語だった。
 表紙の絵でも分かるように、この物語は、谷口ジローさんによって漫画化されている。