『里山資本主義』という新書

 先週末に、栃木県の大田原農場に出掛けるときに、妻が「この本、知っている? 今、話題のベストセラーなのよ。電車で行くなら読んでみたら・・」と、渡してくれたのがこの新書。
 書店員や出版社の新書編集長らが選ぶ「新書大賞2014」を受賞した藻谷浩介・NHK広島取材班著『里山資本主義−日本経済は「安心の原理」で動く』(角川oneテーマ21)だった。
           
 簡単にいうと、グローバル経済の体制が出来上がって営まれている「マネー資本主義」の常識を、視点や発想を変えて見直し、お金が機能しなくても水と食料と燃料を手にし続けられる「里山資本主義」という考え方と、その実践で未来は明るくなるという内容だ。
 その実践が、オーストリアの木材を主としたエネルギー政策や、中国地方の山あいの市や町や瀬戸内海の島で、マイナスと思っていた過疎化の中に宝の山を見出して、豊かな暮らしをする試みがすでに始まっていて、お金に依存しないサブシステムとして機能している実例をあげながら、「里山資本主義」がこれからの社会構築の方向だと提唱している。
 そしてそれは、田舎暮らしの里山生活の中だけでなく、都市生活者にも視点を変えれば実践できると述べている。
 なかなか読み応えのある、これからの生き方や社会考察に対して示唆に富む新書だ。
 最後に藻谷浩介氏は、次のような、団塊世代の僕たちへの警告ともいう言葉を述べて新書を締めくくっている。
 ─ 問題は、旧来型の企業や政治やマスコミや諸団体が、それを担ってきた中高年男性が、新しい時代に踏み出す勇気を持たないことだ。古いヴィジョンに縛られ、もはや必要性の乏しいことを惰性で続け、新しい担い手の活力を受け入れることもできないことだ。しかし年月はやがて、消えるべきものを消し去り、新しい時代をこの島国の上にも構築していく。結局未来は、若者の手の中にある。先に消え行く世代は誰も、それを否定し去ることができない。
 里山資本主義は、マネー資本主義の生む歪みを補うサブシステムとして、そして非常時にはマネー資本主義に代わって表に立つバックアップシステムとして、日本とそして世界の脆弱性を補完し、人類の生き残る道を示していく。
 爽やかな風が吹き抜ける未来は、もう、一度は忘れ去られた里山の麓から始まっている。 ─