短編映画『Bagmati River バグマティ リバー』を観る

 月曜日の昼下がり、昔、同僚だったキシ夫妻が「息子の健太朗たちが創った映画が、新宿でやっているのよ。今週いっぱいなのでパンフレットを持って来たの」と、新宿の「K's cinema」で上映中の短編映画『Bagmati River バグマティ リバー』の案内のために訪ねて来てくれた。

                

 この短編映画、2018年にエベレストの単独無酸素登頂を目指すも、滑落死した登山家・栗城史多の追悼作品だという。
 元同僚の息子・岸健太朗さんは、この時、栗城史多の挑戦記録のドキュメンタリー映画撮影のために撮影監督として同行していたという。
 そんなことで、岸健太朗さんはこの松本優作監督の『Bagmati River バグマティ リバー』でも、脚本と撮影にかかわっている。


 火曜日の上映後には、有名な登山家の野口健さんも来てトークショーがあるというので、仕事のやり繰りをして新宿に出掛けた。

 短編映画の内容は、亡くなった登山家・栗城史多さんのドキュメンタリーではなく、行方不明になった登山家の妹が、写真を頼りに兄の消息を求めてネパールに行くというストーリー。
 もう少し詳しく記すと、
 妹のもとに差出人不明の絵はがきが届く。エベレストの風景が描かれていることから、彼女は差出人が2年前にエベレストで行方不明になった兄なのではないかと感じる。その安否を確かめようと、東京から兄を捜しにネパールへと向かう。
 兄の足取りをたどる彼女だが、10年間も会っていなかった兄のことを何も知らないことに気づく。彼女は兄を知っているというシェルパに会いにエベレストに向かうが、登山中に倒れてしまう。そんな彼女を、兄をサポートしていたシェルパが助け出会う。
 病院から戻った彼女は、シェルパに「あなたの見て欲しい場所がある」とガンジス川に合流する河川バグマティリバーに案内される。川岸にはネパール最大のヒンドゥー教寺院パシュパティナート(火葬場)が建っていた。バクマティリバー岸で燃えていく死者の姿を見ながら、シェルパの「ここの水はエベレストから流れてくる。エベレストでも飲まれて、ここでも人々に飲まれている」(詳しくは覚えていないが、このような言葉)を聞きながら、生と死の境界を感じながら兄の死を受け入れる。
                 

    こんな29分の短編映画だった。

 

 上映後は、登山家の野口健さんと、監督の松本優作さんと岸健太朗さんのトーク

               

 野口健さんは、栗城史多さんと偶然にエベレスト滞在していて会って、言葉を交わした後に登頂を目指している彼の後ろ姿に、何か予感を感じてシャッターを押すことが出来なかった心境と、栗城史多さんがどのような登山家だったのか、命を失ってまでなぜ彼は、無謀とも言える最難関ルートの単独無酸素登頂を目指したのかなどなどを、松本優作さんと岸健太朗さんの登頂挑戦前の彼の様子などとともに語られていた。
 栗城史多さんは2012年秋にエベレスト西稜で両手・両足・鼻が重度の凍傷になり、手の指9本の大部分を失っていて、この挑戦は8度目だったという。
 映画のきれいなエベレストの映像も心に残ったが、何を求めて登山家は登頂にこだわるのか、考えさせられる内容だった。

               

 野口さんの「20代の若かったときには、俺は絶対に死なないという自信みたいのがあって、死は遠かったけれど、この年になると、雪渓を登っているときの自分の陰の中に、死の世界みたいなものを感じて、生と死が身近に感じる」というようなことを言っていたのが、心に残っている。

    監督の松本優作さん

               

    監督と共に脚本と、撮影を担当した岸健太郎さん